伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第3章02/探偵キーマン 『事情聴取』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

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第3章02/探偵キーマン 『事情聴取』

 男は、谷津長介《やづ ちょうすけ》と書かれた警察手帳をみせた。巡査部長の肩書。テレビドラマなんかでは、よく、デカ長とか、刑事部長などといわれている。正式な刑事部長は超エリートで、県警トップクラスの人たちだ。現場での通称で正式な肩書ではない。谷津刑事は三十半ばだろうか、身長は百八十センチ近くあり、祁門達郎と肩が並ぶほどあるのだが、小太りしているところに違いがある。

「ああ、祁門さんですか? 修士号を取得なさっている。『きもん』の読みを英国風にして、あだなは、『マスター・キーマン』と呼ばれている。剣道の全国大会優勝してますよね。お会いできて光栄です」

「刑事さんも、剣道を?」

「警察では、射撃のほかに、なにかしら武道をやります。しかし私は二段。大会優勝者にして五段である貴男は雲の上の人ですよ」

「はあ、どうも……」

「大学非常勤講師、発掘会社嘱託。珍しいお仕事をなさってますね」

「潰しが効かないのです」

 達郎は老成した感があり、下手をすると七、八歳上にみられることが多い。相手は、青年が三十歳に満たないということを知ると、一様に驚いた顔になるのだ。

 アパートの玄関で立たせておくのも決まりが悪いので、ダイニングキッチンのテーブルに座らせた。柏が珈琲を準備した。機械でそれをおとしカップに注ぎ、年の離れた従兄と刑事にだす。達郎が目配せをすると、自室に引っ込んだ。それを見計らったように、達郎が谷津に訊いた。

「二度連続して柏が連れ去られそうになった事件ですが、進展はありましたか?」

「そのお、なんといいますかあ。柏ちゃんの画像が盗み撮りされてまして、ネットの闇サイトで公開されていたんですよ。その筋じゃ評判の美少女で、誰に連れ去られてもおかしくありませんや。もちろん、サイバー警察を介して、運営会社に勧告し削除させましたがね」
 谷津が顎を指で掻いた。

 「えっ?」達郎は、考古堂唯一の正社員で同僚にあたる奄美剣星がかいている下手な自作小説を連想した。それにでてくる黒幕がいて、従妹を何かの目的で付け狙っている。だが刑事のいうことが本当だとすれば、話はさらに厄介だ。
 (いや待て……)黒幕はやはりいる。そいつが、捜査陣を混乱させるために、ネットの闇世界に柏の画像や個人情報なんかを垂れ流しにしていると考えるべきではないのか。そんなふうに感じたが確証はない。「発想が豊かですね」と相手に一蹴されかねないので口にはしなかった。
 刑事は話を続けた。
「歳の離れた妹さんかと思ったら、従妹だとか。何年かしたら籍をお入れになられる?」

「俺はただの保護者です」青年がむっとした顔になった。

「あ、立ち入ったことでしたね。天使のような美少女と一つ屋根の下にいるというのは、私のような俗物には十分に妬みの対象なのです。エロオヤジの妄言。失敬失敬」刑事は、慌てたように、ハンカチで額の汗を拭いた。

(まったくもって失礼なオヤジだ!)

「そこらあたりの個人情報もネットに流れているんですか?」

「はい、まあ……」

 なんということだ。十三歳の従妹は、微塵の罪もなくして、不特定多数の敵から潜在的に狙われているということではないか。

 谷津は閉じられた柏の部屋をみやってから小声でいった。

「――では本題に参りましょう。こないだまで、下の階に香山さんご夫妻がいらっしゃいましたよね。旦那さんが雄二さん、奥さんが紀美代さんです。ニュースでお訊きになりませんでした? 霞ケ浦で奥さんの遺体が、毛布にくるめられ縛られた状態で浮き上がりましてね。なにかお心あたりがないか、ご近所に訊いて回っているのですよ」
「旦那さんは?」
「行方不明です。引っ越し先のアパートで、荷物は置きっぱなしになってます」

 達郎は、音に敏感で、「エアコンの振動がうるさい」というクレームが、大家を通じて訊きた。扇風機三台を買ったということ、香山夫妻が引っ越しをする間際の夜中に、口論しているのを訊いたということを話した。を話した。青年は、香山の夫人である紀美代を一度もみたことがない。柏や近所の人、大家までもがそうだということを話した。

 谷津刑事はメモをとりながら、「ほかには?」といった。

「あ、そうそう。香山氏を最後にみたのが下の駐車場で、自転車で職場まで通っているのに、珍しく車に乗り込もうとしていました。車種はミニクーパでした。稀にこれが置いてありましたので所用車だと思ってましたよ」

 谷津はやや肥っている。目を大きくして、「どんなふうでしたか?」とさらに訊いた。

「柏と一緒に、トランクのようなものを積んでいるのをみました。駐車場に小さな車輪のようなものが落ちていましたよ」


 ナイフで刺せば響くような悲鳴をあげる。だがあのとき声はしなかった。だから絞殺だ。香山雄二は紀美代夫人と口論になり、かっとなって首をしめて殺した。少し落ち着くと、事の重大さに気づき、遺体を湖に沈めるため、職場に車をとりにいった。部屋に戻ると、遺体を車輪付の大きなトランクに押し込めて駐車場に運んだ。このとき、相当の付加が車輪にかかり、一つが外れたというのだろう。達郎はそう考えた。谷津刑事も同じだ。

「おおっ。ご協力、感謝します!」

 肥った刑事は、狂喜したかのように達郎の腕に両手を添えて何度か振ると、ドアから飛びだしていった。部屋から、ベランダ越しに、車輪を拾う谷津の姿がみえる。いつの間にやら白い手袋をはめ、ビニール袋に収めていた。駐車場にさりげなく停めてある自家用車は覆面パトカーだ。部下の刑事がでてきたのがみえる。

 達郎の部屋に柏が入ってきた。不安そうな表情である。

「香山さんの奥さん、旦那さんに殺されたんだ……」

「恐らくね」

「やっぱり、こないだの晩かなあ?」

「俺もそうだと思う」

 アーモンドのようなアイラインをした少女が、三十近い青年の背中にしがみついた。
 達郎は、抱きしめようとする手を引っ込め、そっちの「パトロン」である未亡人・考古堂のマダムとの逢瀬を連想した。そして、「柏は家族だから」と、保護者にして歳の離れた従妹との仲を深めぬように自制したのである。目は血走っていないだろうか、妙に気になった。

 (にゃあ!)保護者達郎、心の叫び。



(つづく)
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