伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第1章稿了・04 /探偵キーマン 『君は何者か?』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

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第1章稿了・04 /探偵キーマン 『君は何者か?』

 女子トイレである。洋式で、カツラを被りサングラスをかけた男は、柏《かしわ》を膝に抱く格好で、蓋がされた便座の上に座った。髭の薄いタイプで、化粧をすれば女装も容易らしい。スカートにハイヒールまでしている姿は美しくはないが中年の女にみえる。そいつがナイフを少女の首につきつけ、耳元にささやいた。口臭が酷い。

「祁門柏《きもん かしわ》だな? 冥土への土産にいいことを教えてやる。おまえは変質者に襲われ、弄ばれて殺される。そういう筋書きだ。行きずりの犯人が立件される可能性は低い。事件は迷宮入りだ。それにしても上玉だな」

 舌なめずりした男が鼻で笑った。柏《かしわ》は悲鳴をあげようにも、ナイフが怖くてそれができず、されるがままだ。いまにも失禁しそうになっている。男の片手がスカートの中に伸びてきた。

     ☆

 紐ネクタイに、カジュアルスーツ姿をした青年は、通路を大観しながら小走りしていた。祁門達郎《きもん たつろう》だ。

 非常階段、トイレ、エレベーター……。

 まず非常階段とエレベーターに二人は使わないだろう。非常階段は人目につきにくいが、出入りのときに、来訪者の目にとまりやすい。リスキーである。エレベーターもそうだ。見ず知らずの犯人が少女を捕えて、それに乗り、改札口を抜けて外にでるのは厄介だ。それだけ防犯用監視カメラに身をさらすことになる。
 残るはトイレだ。監視カメラが設置されていない。殺人・猥褻行為にはうってつけの場所だ。男女の房に分かれている。この場合、男子トイレに女子中学生を連れ込む男がいるだろうか。目立ち過ぎだ。場合によっては来訪者に取り押さえられ、ガードマンや警察に通報されてしまう。

 ――柏《かしわ》を監禁している犯人がいるとして、二人で人目の多いフロントから外には出ない。密室で事を済ませ一人で逃走するはずだ。犯人は、女もしくは女装した男だ。女子トイレで柏《かしわ》を監禁している。

 女子トイレ・洗面台前に老婦人と孫娘の連れがいた。「しいっ」と左手人差し指を唇にあて残る右手でスーツ内ポケットから運転免許証の裏側をみせた。離れたところにいえる老婦人には遠視も手伝って警察手帳にみえるというわけだ。身分詐称だが、ここで悲鳴をあげられたりしたら困る。緊急避難的な措置だった。

 トイレ小室は三つあり、どれもドアノブ下に使用中の赤い表示がでている。三つを左から順番よく叩く。すると二つは二秒で、残る一つは倍かかってノックが返された。犯人が被害者を抱きかかえていて、手がふさがり、ノックを返すのに手間取っている可能性が高い。


(ここだ――推理が外れたら、本物の警官にお縄になるな……。お縄になった後で、ひょこり、柏《かしわ》がでてきたら自殺ものだぞ)


 達郎は、大きく息を吸い、覚悟を決め、「せいっ!」と掛け声をあげドアを蹴破った。事件と無関係な女性ではなかった。その意味で安堵した。
 犯人は柏《かしわ》を抱きかかえるため、脚を拡げており、片膝を殴打する形となった。苦痛を堪える顔をしているが、まだ、ナイフは離さない。
 達郎は手刀を食らわして相手の凶器を床に叩き落とす。女子中学生が保護者であるところの青年の後ろに逃げ込む。彼は、連続した脚蹴りを、相手が痛めた膝に食らわせ、まともに歩けないようにした。

 ほどなく、他の女性客が警備員を呼び、警察も駆けつけてきた。事情聴取を受けながら、達郎が、「あの、壊したドアの弁償ですが、いかほどでしょうか?」と殊勝に訊く。

「管理責任というものがあります。謝らなくてはならないのはこちらのほうでして……」

 逆に、警備員はひたすら頭をさげだしたのだった。

 犯人は柏《かしわ》を監禁したとき、黒幕の存在を示すようなことをいったが、警察に引き渡された後、事情聴取の際、否定し、一転して行きずりの犯行だと主張しだした。

「女装趣味があり水族館をうろつき、通りかかった女性をトイレに連れ込んで襲おうとした。可憐な柏《かしわ》をみかけ犯行に及んだ」そう自供した。

 ともかく、この事件から、女子中学生・祁門柏《かしわ》にとって、達郎は、従兄・保護者という存在から、命の恩人・騎士という存在になった。「パパあ」ではなく「パパ様」になった。「ローマ法王か?」と突っ込みをいれる。

     ☆

 とんでもないハプニングが起きた日の夜、柏《かしわ》は帰るなり入浴してすぐに寝てしまった。アパートの物置部屋にしていた二部屋あるうちの一つが歳の離れた「従妹」の部屋になっている。
 時計が夜十一時を示したころ、達郎は、サービス業務のレポートを執筆するため、ノートパソコンの蓋を開けた。ふと、人気を感じて振りむいた。昼間みた叔父夫婦が現れているではないか。娘を助けてくれたことを感謝しているのだろうか、お辞儀している。

「気を遣わなくてもいいよ、叔父貴……」

 そうつぶやきかけたときのことだ。夫婦の亡霊の間に、半ズボンの少年がいて、母親の陰から顔をだし、こちらをのぞき込むようにみているではないか。そうだ。少年こそ、福島県の実家に遊びにきた従弟・柏《かしわ》ではなかったか。問いただそうとしたとき、三人が消えた。

 従弟・柏《かしわ》と従妹を称する柏《かしわ》はすり替えられている。(なぜだ?)叔父夫妻はそれでも彼女を娘のように扱っている。(いや待て……)もしかすると、ここにいる十三歳の少女を、襲ってきた男の背後にいる黒幕から守って、生命を落としたのではないのか? 法律上は被保護者で従妹になっている彼女には、どんな秘密が隠されているというのだろう。
 叔父はフリー・ジャーナリストだった。叔父夫妻は、黒幕に殺されるということを予想して、自分に少女を託したのだろうか。だとして、叔父たちと少女との関係は何なのだ。呆れるほどに物語じみた展開だ。
 叔父夫妻の幽霊をみたという莫迦げた話で事件を実証することはできないのだが確信はある。

 達郎は、ドアを開け隣室をのぞきこんだ。ベッドに横たわる柏《かしわ》の寝顔は、天使というよりは小悪魔のようにみえた。

.

――柏《かしわ》、君はいったい何者なのだね?



(第1章「水族館」/稿了)
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