伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第7回/妄想探偵事務所 甕割の契り
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

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第7回/妄想探偵事務所 甕割の契り

    7 甕割の契り

 

 海のみえる丘の上に大きな村があった。そこに住む房麻呂(ふさまろ)は人好きのする若者でよく働いた。やや細面で鼻が高い。真っ黒に日焼けしている。総女(ふさめ)という許婚(いいなずけ)がいた。髪の長い、目の大きな娘だ。

郷長(さとおさ)の息子・銅鑼麻呂は総女に横恋慕しようとしていた。妻はすでにいる。要は妾に欲しいのだ。折しも郡司が、先に、九州に送った若者が任地で死んだので、欠員ができ、補充をよこせという命令をだしてきた。そこで父親の郷長に耳打ちして、房麻呂(ふさまろ)を前線に飛ばす算段をしたのだ。

房麻呂は、甕を二つに割って、半分を総女に与えた。

「いつか、甕をもとの一つにしよう」

 そういって九州に旅立った。

     ☆

 今年の八月末はひどい残暑だ。遺跡調査員である私と相棒のマスター・キーマンは、滝のように汗を流しながら、八世紀終わりごろの竪穴住居跡を掘り下げていた。

 このころの住居跡は古墳時代のものよりも、かなり小ぶりになる。全長五メートルのものが、三メートル弱に規模が縮小されるのだ。古墳時代は、大きな一棟に一家が、ぎゅうぎゅう、押し込められていたのが、奈良時代以降になると小さな棟に分散したのだとか、あるいは、平地式住居なる小屋に人々が住むようになったのだとされる。平地式住居は竪穴式住居よりも掘り込みが浅いため、発見時、畑の耕作ですでにこわされていることが多く、ほとんど残らないタイプの家屋だ。

 家の東側や北側にはカマドがつけられている。四角い形をしていて、燃焼部で薪木を焚くと煙は、地下を掘った煙道から、地上にあるポット状をなした煙出しで排出される。この煙道の天井は、蓋をつけたり、乾燥させながら粘土を固めてアーチにしたり、はたまた、トンネルを掘ってつくったりする。ここの遺跡の煙道は壊れた甕を構材にしているのが特徴だ。胴部が長く、口が「く」の字に折れ曲がっている。

 八世紀といえば、東国から多数の防人(さきもり)が徴兵されていた時代だ。日露戦争を扱った映画『二百三高地』で、さだまさしが唄った主題歌『防人の詩』はここに取材している。

 六六三年に勃発した、朝鮮半島での軍事衝突「白村江(はくすきのえ)の戦い」は、唐・新羅連合軍対日本・百済連合軍によるもので、日本が大敗した。そこから七九二年に「健児(こんでい)の制」がつくられるまで続いた。食糧・武器自前、実家では税を平年通りとりたてる、任期三年をずるずる延長、帰りはろくな路銀も渡さずに放逐するものだから、多くは餓死に至ったという。

    ☆

 身の丈百八十センチのキーマン青年が、カマド煙道の天井の構材にした長胴甕を縦半分に割ったものを写真にとるべく、竹べらで土を除去していた。巡回に私がくると、途端に、困ったような顔をした。

「奄美さん、また、まさか、物語をいいにきたんじゃないでしょうね?」

「どんな?」

「防人にいくことになった若者が、長胴甕を縦に割って、許婚に一片を与え、それぞれの家のカマドの煙道部天井構材につかう。そして、帰郷のあかつきにはもとの一個体に戻そうと約束し合う……そんな話を思いついたのでは?」

(――うっ、読んでいる。嫌な奴だ)

 では、こんな話はお気に召すかな?


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