伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第12回/遺跡調査班黒騎兵 『遺跡の遺体』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

第12回/遺跡調査班黒騎兵 『遺跡の遺体』


 プレハブ休憩棟から峻厳な谷がみえる。作業員の世話役である古老が指さした。
「あそこの崖から人が落ちた。赤岳志郎って奴だ。腕のいい猟師《マタギ》だったんだが……」
 すると別な作業員が口を挟んだ。
「二年前になるなあ。奴はまだ四十前だ。足腰はしっかりしているし、山は庭みたいなもんだ。あの程度の崖から落ちるなんざ、いまだに不思議でならねえ」
「猿も木から落ちるってこともあるのさ」
 古老が食後の茶をすすった。
 麻胡と弥生は、そのときは、ただ訊き流していた。事態が重くなったのは、午後の作業であった。
 古代の遺構ではなく、現代人が掘ったゴミ坑や溝なんかは、戦時考古学といった特殊遺構の調査でもなければ対象外となる。こういったものは、「攪乱《かくらん》」と呼ばれる。掘りぬいてみると底部に意外な遺構が残っている場合があるので、掘り抜くときもある。遺構は丁寧に移植コテを使うのだが、真新しいその穴は、スコップで一気に掘り抜いた。
 するとそこから黒いビニールがでてきた。弥生がそこにゆくと、腐臭が漂っていた。白骨化した遺体がある。
(駄目……)
 目を回してひっくり返りそうになったところを、作業員たちに背中を支えられ、地面にゆっくり寝かされた。そのうち麻胡が駆け付けてきた。
 遺跡から出てくる遺体というものは、通常は遺物として扱われる。しかし、ビニールに包まれたような明らかに現代のものは、やはり、事件性があり、警察に引き渡す必要がある。
 作業員が遺体から免許証をみつけた。
.
――星川淳平。
.
「あれっ、こいつ、志郎が転落死したときの少し前に蒸発した淳平じゃねえか!」
 遺跡がざわついた。
 赤岳志郎が崖から転落死した直前に、失踪していた星川淳平。二人は同年齢で猟師である。星川と思われる免許証まででてきた事件性が強い。警察が入ると、しばらく遺跡調査は中断されるだろう。報道機関が入り、野次馬なんかが押し寄せれば今後の調査にも支障をきたす。
 麻胡は危惧したが、県庁の事務室で詰めている県教育長兼調査団長の田原耕作に電話連絡した。当時は携帯というものがなく事務所に据えた置き電話からかけた。「判った早急に検討しておく」という返事があった。夕方には、警察がきて捜査開始となるだろう。ところが団長から、「恵比寿谷村は雨季と積雪期が長い。工期は限られている。調査が優先だ。関係筋も、『内々に処分してくれと』といってきている」という返答があった。
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genre : 小説・文学

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