伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第2章2/ファア王国志 『国王救出』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

第2章2/ファア王国志 『国王救出』

第2章 宰相謀反

2 



 王宮前の広場を囲んで、宰相ブライッサ配下の将兵たちが、城壁の上下に陣取っている。玉座には執政コンスラルシュナが座り、両脇にいた王妃は縄で縛られ、王の側近たちは、後ろ手を縛られて広場の中央をみさせられていた。
主公わがきみ、腹心や王妃方にぶちのめされるざまをお見せするとよろしかろう」
 シュナは鼻で笑った。
 ルイエル妃や腹心は、それぞれに、ユンリイ王を呼んだ。
 王は縄でこそ縛られてはいなかったが丸腰で、眼前には、十尺(二百センチ)を超える筋骨の異様発達した巨漢がおり、指や首を鳴らしては幽囚の王を見下しているではないか。執政コンスラルシュナは続けた。
「そいつは素手で敵将をへし折ったことがある。威徳とやらで、ひれ伏せさせていただけませんかな、主公わがきみ
 腹心たちは、シュナにむかって、「無礼者」と叫ぶ。返事を返すように、シュナは鞘に納めた剣で腹心たちの顔面を打ち弾き飛ばした。
 宰相ブライッサ一党の歓声が上がり、銅鑼が鳴らされ勝負が始まった。
 対峙しながら大男は間合いを詰めてゆく。ユンリイも相手の動きに合わせつつ一定の距離をあけていた。大男がつかみかかろうとすると、ユンリイは逃げ、引けばユンリイは間合いを詰めた。大男は少し苛立ちを隠さない。
「なにが王だ?」
 大男は舌なめずりして、ユンリイを挑発する。ユンリイは、ふん、と一瞥いちべつする。大男は、つかみかかろうとするのだが、相手に逃げられ空を抱く格好となる。すかさず、ユンリイは相手のすねを蹴った。
「効かんな」
 大男のいうように、確かに効いている様子はない。
 ユンリイが次に仕掛けようとしたとき、縄で縛られた王妃ルイエル、駆け寄ろうとした。シュナが立ちはだかり、まだ若い王妃を平手打ちにした。
 王の動きが止まったところで、大男は腹部に拳を突っ込む。細身の王は弾き飛ばされ、シュナの配下の雑兵たちの列によろめく。雑兵たちは、ここぞとばかりに、王の尻や背に蹴りを入れ、屠殺者をきどった大男の待ち受ける広場の中ほどに突返した。
 前かがみになったユンリイの頭部に大男が両拳を叩き下ろそうとしようとしたが、辛うじて逃れる。逃れる間際、王はまたしても大男の脛を蹴った。
「おまえの主人は年端もゆかぬ乙女の頬に平手をいれたぞ」.
「それがどうした。野蛮人ルーコン氏族の娘ではないか?」
「ルイエルは賢く美しいが、おまえは筋肉ばかりで猿ほどの知力しかない。きいきい鳴いてみよ」
(なに!)
 みるからに憤激した大男がつかみかかろうとすると、また王は相手の脛を蹴った。蹴りが効いてきた。大男が攻撃を加えるたびにユンリイは相手の同じ箇所ばかりを何度も蹴るので、ついに脚をひきずりだす。ユンリイがほくそ笑む。
(奴の動きは封じた。打撃を加えてきたすね渾身こんしんの一撃。奴はたまらず片脚を上げる。金的ががらあきになったところで一撃。前のめり崩れてきたところで、頭部に一撃。これで奴はしまいだ)
ユンリイは、想い描いた通りに相手を倒した。シュナが、いまいましげに、「王を捕え、脚を切り落とせ」と命じ、雑兵たちが捕えようとしたのだけれども、刹那、複数の火矢が射込まれ阻まれる。王宮の外で地響きが鳴りだしてきた。戦象のものだ。
「近衛軍。王を人質にしているのだぞ。王もろとも焼き殺す度胸が、奴らにあるというのか」
 シュナが叫ぶと、配下の伝令が、「王姉フィルファ内親王殿下の軍勢が、王都城外にいた友軍五千を撃破しました。近衛兵の主力が合流してゆきます」と告げた。
 宰相ブライッサガントスが駆け寄ってきた。
「何という愚かなことをしているのだ、シュナ?」
 宰相ブライッサは王と目が合うと、視線をそらし、従兄弟の執政コンスラルに、「本領に引きあげるぞ」と告げた。シュナの配下たちは、ユンリイ王を捕縛しようとしたのだが、王は雑兵の一人から剣を奪って大立ち回りをしだす。シュナは、王を大人しくさせるため、雑兵たちに、「王妃たちの喉元に剣をつきつけよ」と命じた。だが、二人は縄を、するり、と抜けて宮殿の柱列群を蹴りながら奥へと消えてゆく。
(王妃様の猫かぶりに騙されておったわ。やはりルーコン氏族、山猫だ!)
 シュナが舌打ちする。
 直後、破城槌はじょうついで城門を突き破った。破城槌は攻城兵器の一種で、分厚い板で覆われた装甲車だ。内部の兵士たちが装甲車を押して、横にした丸太を城門にぶつけて壊すのだ。
 近衛軍のゴルセオの率いる百人隊が破城槌で城門を破ると、ゾヤやラージンといった王臣たちの戦象に率いられた隊伍が続いて斬りこんでくる。王は、うまうまと、味方の軍勢に合流することに成功した。
 火をつけたのは、ルーコン氏族だ。(やはりな)とユンリイはつぶやいた。自分がいるのを知っていて、宮殿に火矢を射込む度胸があるのは、氏族の長エルーナしかいない。
 エルーナは、王宮に乗り込んでくるなり、娘はそっちのけでユンリイ王をみつけ、「友好の証」である抱擁。さらには、「友好の証」か否か不確かな頬ずりを始め、後ろに控えている国師モスタシャルマギオンの咳払いを訊くことになる。
 国師モスタシャルの背後にある門を、額に五芳星の黄金飾りをつけた白い戦象がくぐってきた。王姉フィルファ内親王御用のものだ。内親王は、戦象をひざまずかせ、幼さの残る王妃を自らの御座に乗せて、(もう大丈夫)と抱きしめた。
 今回のユンリイ王奪還作戦では、内親王が主導的な役割を果たした。御料地から王都に向かう街道では、沿道諸市から義勇軍が加わり、さらに、ルーコン軍まで加勢してきて、王都に到達するころには兵員六万に達し、宰相ブライッサ派の軍勢一万を圧倒するに至ったのだ。特に指示したというわけではない。この人の存在が、自然と大兵力を集めたのである。
 王党派が王都奪還を果たしたため、宰相ブライッサ派は自領地ゴルコル地方に引き上げた。領地は王国中央部に近く、領地は二十城市に及ぶ。ゴルコル地方は、中原にある諸侯国のティアやクオンよりも規模が大きく、退却した主力のほかに、各城市には予備兵力があり、動員すればなお二万ほどの軍勢をかき集めることができる。しかも敵は地の利を熟知しているから、攻め込むには相応の損害を覚悟しなくてはならない。






【登場人物】

肉林王バゼホリーマユンリイ/中原ヨシンヌの人から「南蛮ババリ」と蔑称べっしょうされる辺境の大国ファア王国。そこで惰弱を振る舞う青年君主。本編の主人公である。破廉恥な宴で莫迦騒ぎもする一方で、広大な宮殿外苑「羽林園アリヨシア・アリーシャ」の菩提樹の木陰で瞑想するのを好む。サートンの説得により、惰弱の仮面を脱ぐ。以降は「覇王モリ・キャザディーン」と呼ばれる。王族用白象アファーシファに乗る。天才鍛冶職人ハダドに打たせた隕鉄剣ハディー・ナイサキー、異称『七星剣カヴィエ・ヴァルハ・カース』を佩剣とする。女性的な容貌であるため、敵に侮られるのではないかと気遣う王姉の内親王により、醜い鬼神シャイターンの仮面を贈られる。
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フィルファ内親王/ユンリイが心を許す聡明な姉。敵対陣営にいる宰相ガントスをしても、「男に生まれれば間違いなく名君になった」と賞賛される一方で、「王のアルヨン・アルモリック」とも呼ばれ恐れられる。御料地ウオサレオダは、王国施政のモデルケースとなった。王族用白象イゾニアに乗る。

国師モスタシャルマギオン/若き首席宮廷道士モキマ・ドーヤ。ユンリイ王、サートンやナイカルといった若い人材の資質をいち早くからみいだした大臣。 

故・老師ザムリアル/先代国師でマギオンの師。死してなおファア王国と愛弟子の行く末を気遣う。

サートン/中級貴族フェアレサ出身で王立学問所学生ジャミハに在籍していたとき国師マギオンに、後輩ナイカルともどもスカウトされ王臣となる。「腕っ節は強いが将領というほどのものではなく、成績は良いが主席というものでもない。だがその言葉は人の胸を打つ」と評される。「一騎当万の舌先三寸」で王国の窮地を何度も救う。

ナイカル/王立学問所ジャミハ学生のときサートンの後輩だった。サートンともども国師にスカウトされ王臣となる。小柄。愛嬌があり、毒舌。サートン同様に、外交官として活躍。後の人に、「サートンに勝るとも劣らず」と評される。

ゾヤ/弓の名手。下級貴族である士族ペザーオイード出身。大貴族のしがない飼い殺されかけていた。王都近郊にある荘園で奴隷監督役をしている。実は弓矢の名人で、後に「弓仙ゾヤ」と呼ばれ、近衛軍の将領となる。

ゴルセオ/槍の使い手。田舎貴族に仕えていた士族ペザーオイード。王臣となり「豪槍ゴルセオ」と呼ばれ猛将となる。ラージンと双璧をなす。ゾヤの親族。

ラージン/剣の使い手。田舎貴族に仕えていた士族ペザーオイード。王臣となり剣のラージンと呼ばれ猛将となる。ゴルセオと双璧をなす。ゾヤの親族。

ハダド/鍛冶職人集団の長。中級貴族フェアレサ階層の人。

宰相ブライッサガントス/したたかな実力者。王族系の大貴族タンマビル

執政コンスラルシュナ/ガントスの従弟で同門。王族系の大貴族タンマビル

ハーン将軍/ジーン侯国の名将で後に元帥・宰相の職に就く。中級貴族フェアレサ竜御師ダギリナ・メリックの家系。

セヒーナ夫人/クオン公族に嫁いだティア公女。絶世の美女である。

エルーナ/森の民ルーコン氏族族長。

ルイエル/ルーコン氏族出身。盟約により十三歳でユンリイ王に嫁すエルーナの娘。「望気ポンファロガ・エルナ」の才能がある。

オーソン/ズウ帝国大貴族。若いが切れ者である。軍師・宮廷道士としての素養もある。
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