伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第1章3/ファア王国志 『遭遇戦』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

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第1章3/ファア王国志 『遭遇戦』


第1章3 帝国への道

3 遭遇戦

 両軍ともに、にらみ合いという形をとるはずであったティア侯国を舞台にした戦場は、ファア王国の執政シュナの突撃命令によって均衡は崩れた。
「味方三万に対して敵は二万。ジーン侯国の兵力を削ぐ絶好の機会。ものども、行くぞ」  横列陣形をとったファア王国軍先陣二万四千が、間合いを百歩弱に詰めて、弓矢を一斉に放ったところで、戦闘が開始された。
 ファア王国軍主力の実質的指揮権は、なおも宰相の一族である執政シュナにあり、後陣六千に守られたユンリイ王は、
督戦とくせんという形での参戦だ。
 両軍ひとしきり矢を放ったところで、それぞれ二頭だての馬車であるとこの戦車が前進、戦車一乗につき歩兵百名が属して一隊を構成するのだが、各隊がせり出して白兵戦が始まった。
 戦いは当初、執政シュナが目論んだように、ファア王国が圧倒し、ジーン侯国軍は、じわじわ押し戻されていく。だが、 「わが
黒甲兵こっこうへいよ。せがれども、参るぞ」と号令した白髭の将領ハーンが采棒さいぼうを天上に掲げるや、太鼓が打ち鳴らされ、黒一色に染められた軍勢約五千名が、まず方陣をつくった。
 方陣は一辺につき七個小隊が横並びしており、後方には同じ構成となった横列が七段構えとなって続いている。
 ジーンの老将ハーン
麾下きかの軍勢、第一段が防戦にあたり、後方第二段以下が、つぎつぎと前に繰り出して波状攻撃を開始する。この将軍の奮闘により、後方で体勢を立て直した侯国諸隊が前衛に復帰して黒甲兵の両翼をなして、ファア王国軍主力を押し戻し始めた。.
 陣形といえば、会戦初期にセットしただけで、あとは崩れてしまう。そんな常識をジーン侯国のハーン将軍は刷新してしまった。
(まるで生き物ではないか!)
 軍勢を自在に操る老将に、執政シュナは、顔面の冷や汗を手でぬぐうほかなかった。黒甲兵に押し戻されてしまったファア王国軍主力を後目にユンリイ王は、麾下の将兵に命じた。
「近衛軍をもって
後詰ごづめとする」
 近衛軍に参加していた王臣たち将校には、弓仙ゾヤ、豪槍ゴルセオ、剣聖ラージンといった勇士たちがおり、戦象一頭と兵士百名を預けられていた。
「背中に風を感じる。どこまでも飛べそうだ」
 中央を進むゾヤが大声でそう叫ぶと、両脇を固めたゴルセオとラージンが深くうなづいた。
 近衛軍の背後まで潰走したファア王国主力将兵は、パニックを鎮めて近衛軍の両翼を固め始めた。
(ユンリイ王御自らが
殿軍しんがりに。主公わがきみは、われらを見捨てない)  この様を間近にして感動したのは王国勢ばかりではなく、なんと、ジーン侯国将兵たちもが賞賛した。
.
 ――何んという剛毅さ。われらも、このような主君が欲しい!
.
 戦闘の後半、ジーン侯国軍の采配はハーン将軍が実質的に執り行っている。ハーン将軍は戦術的退却を意味する
銅鑼どらを鳴らさせて、整然と友軍を退却させていった。
 このティアでの小競り合いは、はた目には痛み分けとなった戦いであるが、ファア王国にとっては大きな一歩であった。戦後、王国軍将兵の大半がユンリイ王を熱狂的に支持し、勢力基盤となして宰相一族を圧倒するようになったからだ。
.
 ――眠れる大鳥が、目覚め、ひとたび羽ばたけば、必ずや大風が吹く。
.
 国師マギオンは戦場から南に数里退いた高台に立っていた。中原諸国取り込みを謀って、副使であるサートンやナイカルを随行し奔走していたのだが、一段落つき、ユンリイ王に合流しようとしていたのだ。
主公わがきみはこれほどに眩しかったのか。『運命の女』を抱いた私の過ち、あなた様なら、あるいは……」
 ナイカルが若い道士をしげしげと眺めていると、サートンが、(余計なことをいうなよ)と袖を引っ張って釘をさすのだった。
.
(序章「肉林王」完結)









 
【登場人物】

肉林王バゼホリーマユンリイ/中原ヨシンヌの人から「南蛮ババリ」と蔑称べっしょうされる辺境の大国ファア王国。そこで惰弱を振る舞う青年君主。本編の主人公である。破廉恥な宴で莫迦騒ぎもする一方で、広大な宮殿外苑「羽林園アリヨシア・アリーシャ」の菩提樹の木陰で瞑想するのを好む。王族用白象アファーシファに乗る。

フィルファ内親王/ユンリイが心を許す聡明な姉。敵対陣営にいる宰相ガントスをしても、「男に生まれれば間違いなく名君になった」と賞賛される一方で、「王のアルヨン・アルモリック」とも呼ばれ恐れられる。御料地ウオサレオダは、王国施政のモデルケースとなった。王族用白象イゾニアに乗る。

国師モスタシャルマギオン/若き首席宮廷道士モキマ・ドーヤ。ユンリイ王、サートンやナイカルといった若い人材の資質をいち早くからみいだした大臣。 

故・老師ザムリアル/先代国師でマギオンの師。死してなおファア王国と愛弟子の行く末を気遣う。

サートン/王立学問所学生ジャミハ中級貴族フェアレサ出身。ナイカルの上級生であった。

ナイカル/サートンの後輩。王立学問所ジャミハ学生。

ゾヤ/弓の名手。下級貴族である士族ペザーオイード出身。大貴族のしがない飼い殺されかけていた。王都近郊にある荘園で奴隷監督役をしている。実は弓矢の名人で、後に「弓仙ゾヤ」と呼ばれ、近衛軍の将領となる。

ゴルセオ/槍の使い手。田舎貴族に仕えていた士族ペザーオイード。王臣となり「豪槍ゴルセオ」と呼ばれ猛将となる。ラージンと双璧をなす。ゾヤの親族。

ラージン/剣の使い手。田舎貴族に仕えていた士族ペザーオイード。王臣となり剣のラージンと呼ばれ猛将となる。ゴルセオと双璧をなす。ゾヤの親族。

ハダド/鍛冶職人集団の長。中級貴族フェアレサ階層の人。

宰相ガントス/したたかな実力者。王族系の大貴族タンマビル

執政シュナ/ガントスの従弟で同門。王族系の大貴族タンマビル

ハーン将軍/ジーン侯国の名将で後に元帥・宰相の職に就く。中級貴族フェアレサ竜御師ダギリナ・メリックの家系。

セヒーナ夫人/クオン公族に嫁いだティア公女。絶世の美女である。

エルーナ/森の民ルーコン族族長。

ルイエル/ルーコン族出身。盟約により十三歳でユンリイ王に嫁すエルーナの娘。

オーソン/ズウ帝国大貴族。若いが切れ者である。軍師・宮廷道士としての素養もある。



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