伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第25回/ジーン侯国志 『代償』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

第25回/ジーン侯国志 『代償』

 公女に憑いた『封神《ウォ・ハタマ》』がいった。
「会いたかったぞ、 『応龍《スナーハ・ダギリナ》』。連れ合いが竜御氏《ダギリナ・メリック》をここまで誘い出したのは、卿を呼び出させるためだ」
「ええぇつ!」
 ハーンの背に控えていた御者クイントスと童子クウが叫んだ。織り込み済みとすれば、自分たちは、『封神《ウォ・ハタマ》』の手のひらで初めから転がされていたことになる。 憑かれた公女が竜にむかって言葉を続けた。
「卿が眠りについている間にズウ帝国は滅んだも同然になっているのは承知か?」
(承知している)
「大陸の乱れのもとは、卿が怒って眠りについたことによる。異民族《バルバロイ》が帝国に押し寄せたとき、当時の竜御氏《ダギリナ・メリック》に力を貸す見返りに、卿は西の砂漠を堰き止めて湖を造ることを条件とした。その約定はなされたか?」
(不履行のままだ)
「ギール朝滅亡の時も、竜御氏《ダギリナ・メリック》は約定を違えたな。ならば、不実な人間など見限って、われら『封神《ウォ・ハタマ》』と組せぬか? 薄汚い道士どもに囚われた『封神《ウォ・ハタマ》』を解放し、われらの力を糾合すれば、砂漠に湖などいくつでも造ってやるぞ」
(確かにそうだ、興味深い提案。西の砂漠を潤すことは、鰐《わに》や亀《かめ》、鳥どもの悲願だ)
 封神と翼竜の問答を訊いていたクイントスと童子が、「やばい。やばすぎる」とつぶやいた。ハーンは黙って成り行きを見守った。
 『応竜《スナーハ・ダギリナ》』は一度双眼を閉じて、憑かれた公女アズナラズをみつめた。
(アズナラズ。わが棲家。そなたは美しい)
 竜が羽ばたく。旋風が巻き上がり、少女は床に膝を屈した。
「どうしたのだ、 『応龍《スナーハ・ダギリナ》』。何が気に入らぬというのだ?」
(『封神《ウォ・ハタマ》』はどいつもこいつも顔が悪い)
「く、くだらぬ。それが理由だというのかぁあ?」
(そうだ――)
 土鈴を転がしたような笑い声。少女が悲鳴をあげた。羽ばたく翼竜の旋風にあおられて、ついに牛頭の『封神《ウォ・ハタマ》』が姿を現した。石像に吸い込まれてゆく。途上――。そのままにすれば、勝手に女神は封印されていたであろう。だが気まぐれな竜は許さなかった。がぶり、とその身体に食らいつく。
(翼竜、美少女趣味、変態――)
.
 はぁひぃいいいっ……。
.
(何とでもいえ)
  応竜は牛頭神を数度咀嚼《そしゃく》して呑み込んでしまった。水面に朱を垂らしかきまぜたかのような鮮やかな色が霧状となり、宙で渦巻いている。くちゃくちゃ、という音がした。
「く、食われている。『封神《ウォ・ハタマ》』が……。残酷だ。残酷すぎる。『応龍《スナーハ・ダギリナ》』。神か悪魔か――」
 クイントスが四つんばいになって嘔吐した。童子クウは、(面白ぇえや!)と狂喜していた。ハーンもクイントス同様に吐き気がしたのだが、清浄を好む竜の怒りを買わないように必死でそれを堪えた。
.
 ――竜御氏《ダギリナ・メリック》。汝の一族との付き合いは長い。約定が違えられているとは考えておらぬ。遅れているのだな。もう少し待とう。「水辺に棲まう者たち」は汝ら一族に期待している。
. 
 土鈴を転がしたような笑い声。白煙があがり、突っ伏した公女の指輪に消えていった。ハーンは外套で裸になっている公女の身体を覆い抱き上げた。ハーン、クイントス、クイ、それにまだ眠っているアズナラズの四人が階段を昇り切ると、『封神《ウォ・ハタマ》』の記念柱の根本にあった入り口が消えていた。
白髪の貴紳ウレメド・シャールがずっと待っていた。
「『封神』の『気《エルナ》は都城に富を誘い込む』。道士どもが嘆く。まあ、仕方あるまい」
 はにかむと、この人は門番に話をつけて、無事にハーンと仲間たちを宮城の外にだしてやった。
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