伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第23回/ジーン侯国志 
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

第23回/ジーン侯国志 

偉丈夫に猿頭を載せた『封神《ウォ・ハタマ》』が、黄ばんだ牙をみせた。
(竜御氏《ダギリナ・メリック》よ、吾《われ》を封印した道士《ドーヤ》どもは束になって天使だの使い魔だのを呼び出してわれを匙に封印した。汝は一人か? 愚か者のようだな――)
 双方の手には戦斧の柄が握られている。二本の斧が宙を舞う。体力の消耗を押さえたい若いジーンの近衛士官は、紙一重で、繰りだされる敵の斧をかわしていた。もちろん彼一人の力で猿頭神を倒すことがかなわいないことぐらい知っている。
 地下墓所の階段近くで様子をみていた童子クウが、御者クイントスに訊いた。
「ねえ、クイントス。ハーン様は、猿の『封神《ウォ・ハタマ》』と戦うというよりは、何か後にあるものを狙っているような気がする。何だろう?」
 御者クイントスも士官である。それに関して、上官が不利になることは口にしない。だが、ハーンが封神の背後で寝かされている公女アズキャラズに、正確を期するならば、彼女が左薬指にはめている『応竜《スナーハ・ダギリナ》』の指輪に触れようとチャンスをうかがっていることは容易に想像がついた。ティアの女道士ダナナラスが、『応竜《スナーハ・ダギリナ》』が公女の心に宿っているようだといったことがある。
 もちろん猿の『封神《ウォ・ハタマ》』もしかりである。
「公女の指輪に触れて、『応竜《スナーハ・ダギリナ》』を召喚しようというのだな? そうはさせぬ)
 ハーンは竜御氏《ダギリナ・メリック》直系であり、竜の召喚術を父親から徹底的に叩きこまれている。召喚呪文は簡単だ、その名を呼びさえすればよいのだから。あとは術者の『気《エルナ》』がものをいう。これも一族たちから折り紙付の評価があった。問題が一つだけある。ここ百年ばかり、気まぐれな竜はどこかに隠れてしまい、竜御氏一門の前に姿を現さなくなったことだ。ゆえに『応竜《スナーハ・ダギリナ》』召喚は賽を振るような大勝負である。人生にはそういうときが何度かある。父親はそうつけ加えもしたことを思いだす。
 猿頭神は、両手に持った戦斧を、いよいよ激しく繰りだしてきた。若い近衛士官は、かわしながら、間隙をついて相手の右一の腕ばかりを狙って衝いていく。小打撃であるのだけれども、何度も同じところを攻められれば、使えなくなろう。そこを潰したら、反対の腕を潰してしまう策だ。
(賢かしい!)
 猿の『封神《ウォ・ハタマ》は、後方祭壇付近まで跳び退くと片手で印を結んだ。するとどうだろう。天井から蛇がばさばさと落ちてきたではないか。
ジーンの近衛士官がたっぷりと仕込まれる難易度の高い技、螺旋斬《ハラゾニー》り。宙に舞うように、回転しながら右手の長剣を繰り出し、撃ちもした敵は、左手に持った短剣で確実に仕留める。「ボサーラの乱」で近衛士官はけっこう死んだ。使い手はもう限られたものだ。
 その技で、猿神の眷属たちを、瞬く間に裁断していくハーンだが、どうにも数が多い。後ろでみていた童子が御者に叫んだ。
「あの、首飾りを投げて――」
 クイントスは首にかけた首飾りを外した。ティアの女道士ダナナラスがハーンに与えた「呪《しゅ》」をかけたものだ。彼が預かっていたのだ。そいつを童子クイのいうように、眷属たちにむかって投げつけた。激しい閃光が放たれる。するとどうだろう。生き残った連中は、面食らったように石壁の隙間にわさわさと潜り込んで逃げたではないか。童子と同種族である。彼は元の仲間の欠点を熟知していた。ある意味、彼らを助けたことになるわけだが……。
スポンサーサイト

theme : 自作小説(ファンタジー)
genre : 小説・文学

line

comment

Secret

line
line

line
Google ペイジランク
ページランク-ナビ
line
奄美剣星
line
文鳥貴族
文鳥貴族
line
最新記事
line
「怪盗めろん」

 

line
「文鳥王トリスタン」
 
line
ブクログ
line
小説家になろう
line
amazon書籍
line
アルパカ版の恋太郎です
line
映画『副王家の人々』より
副王家の一族 
line
イアリング
 ekubo
line
チャイナドレス
chainadoress
line
ポーズ
sofa
line
魯迅記念博物館
inu
line
陽だまりの乙女
usagi
line
裸婦
うつぶせのジャスミン
line
sakasu
line
打ち上げ花火をあげられる四季の風景時計
line
PC広告Amazon
line
テーブルと椅子
椅子3   
line
sub_line
プロフィール

奄美剣星 (狼皮のスイーツマン)

Author:奄美剣星 (狼皮のスイーツマン)
1930年前後の歴史推理小説 シナモンと素敵な旅をどうぞ

line
ranking 1
 
line
ranking 2
人気ブログランキングへ
line
置手紙
おきてがみ     
line
Twitter ぼたん
Sweetsman7をフォローしましょう
line
レッドバロン
line
検索フォーム
line
QRコード
QRコード
line
所収作品について
文献・画像等引用の場合は引用元を記載。自作小説倶楽部作品著作権は各著者に帰属。それ以外の文藝作品・絵画写真画像に関する諸権利は当該ブログ管理人に帰属。無断複写転載を禁じます。
line
カジュアルのシナモン
シナモンアップ 
line
リンク
line
マラッカ要塞
marakka
line
珈琲館の割れ甕
城南
line
地図
line
草原の乙女
sougenn
line
バー
eruhurio  
line
海へ行こう
umiheyuku2
line
祖母
  umiheyuku 1
line
洗い髪
araigami
line
癒しの音楽
line
sub_line