伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第7回/佐藤氏が猫になったわけ
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

第7回/佐藤氏が猫になったわけ


    7 くらいまっくすう
.
 藁葺き屋根の民家。そんな外観とは様相を一変させる洋間である。赤いカーペットの上には、猫・犬・アルパカの三匹がいた。
「中居、野菜食うぞ」
「先輩、何度もいいますけれど、俺は犬っすよ。先輩だって肉食獣じゃないっすか!」
 犬の中居の言葉は軽く流し、猫の佐藤がアルパカの前に座った。
「ところで恋太郎。おまえも昔は人間だったそうだな。なんでアルパカになったんだ?」 知りてえ~っ、激知りて~っ」
 犬も寄ってきた。アルパカは窓越しの空に目をやった。夢見るような眼差しである。
  ✩
 昔、恋する若者がいた。こともあろうに若者は泉のほとりで偶然に出会った貴婦人に思いを寄せてしまった。若者はもう一度、姫君に出会うのではないかと、毎日、泉に出かけていくうちに病となり、ついに死んでしまった。泉の精が哀れんで、恋の女神に事の次第を打ち明けると、
「若者よ、生まれ変わることを許そう。ただし二つのうちの一つを選ぶがいい──人となるか、それともアルパカとなるか。人を選ぶなら、平民の子として平穏な一生を送るであろう。アルパカとなるなら、あの姫君を背中に乗せることがかなうであろう」
 若者は迷うことなくアルパカになった。
  ☆
 中居が拍手した。犬である彼がどうやって拍手をするのか、細かいツッコミは横に置いておくとしよう。
「──めでたし、めでたしっすよね、先輩」
「まっ、まさか、姫君のお名前はシナモン──か?」
 犬が必死にとめたが、怒り狂った猫がジャンプして、アルパカの顔を引っかき回した。堪らず彼は外に逃げ、家の後ろに流れている川のほうへ駆け出していった。
 奄美家の居候三匹は、その日からほどなくいなくなった。不思議に思ったシルクハットを被った眼帯に口ひげをつけた自称十九歳独身イケメン設定の飼い主が首をかしげながら家中を探し回っていると、洋間・暖炉前・カーペット上に一冊の日記帳が落ちているのをみつけ、ページを開いた。

 ──吾輩・佐藤が、どうやって日記を書いているかって? フフフ、簡単なことだ。爪先にインクをつけているのだよ。それはさておき、「草食系」というのはこういう奴に違いない。アルパカの恋太郎はどういうわけだか女性ウケする。奄美の家を訪ねてきた客、特に女性は決まって恋太郎の背中に乗ったものだ。アルパカ恋太郎は、ときどき部屋をでた川岸にでることがある。(〝あの方〟が現れるかも知れない) 注意を要する。
/(猫になった)『佐藤の日記』
.
 奄美はさらに日記を読み進んでいった。
.
 奄美の家の裏にある河川敷だ。
「先輩、なんだか〝張り込み〟の後ろ姿、いけるっすよ。絵になるっすよ」
「よせ中居、照れるじゃないか」
 後の犬を振り返った猫がはにかんだ。
 夢見るような眼差しのアルパカ恋太郎は今日も川岸に立っている。張り込みを続けていた我々は、上流から流れてくる一艘の小舟をみつけた。漕ぎ手は横になっているのだろうか、誰が乗っているのかわからない。いったい小舟には誰が──。
 岸辺に漂着した小舟には箱があった。
「佐藤先輩。こっ、これは『王子様のラーメン』じゃないっすっか」
「開けるな中居!」
 猫が制止したのだが間に合わなかった。夢中になった犬がダンボール箱を噛み切って穴を開けたそのときだった──。
.
 ふしゅるるる……。
.
 「うわっ!」 犬が食い破った穴から、ドライアイスの蒸気のようなものが噴きだしてくる。小舟から犬が川原に飛び退いて突っ伏し、それから全力で猫のところまで逃げた。
 アルパカは夢見るような眼差しで小舟に視線をむけている。
猫と犬が悲鳴を上げた。.
.
 ぎゃあああああっ。
.
 蒸気をあげ、ダンボール箱の破れ口から細く長い白い手が天をめざして伸びてきた。箱が壊れうずくまっていた者が立ち上がった。
「みい~た~なあ~」
「あ、雪男のメス――」
「何てことをいうんだ、中居!」
 猫パンチが犬に繰り出される。ケシの花のような鮮烈な色彩をした口紅、表情を変えるたびに皺に沿って地割れが走る厚化粧。ロリータ風のアリスのようなメイド服。紛れもない。お局様だ。中居の言葉で目が吊りあがっている。
「私は誰。答えなさ~い~」
 元凶は中居の莫迦正直な問題発言からきている。巻き添えを食った佐藤は猫になったのである。自業自得の犬が猫に耳打ちした。
「先輩。嘘でも、『レディー・シナモン』って答えるべきですよ。今度こそとり殺されますよ」
「駄目だ。できない。ジャーナリストの端くれとして。否、幻想とはいえ、究極に恋したあの貴婦人を裏切るような嘘は、
漢気おとこぎが許さぬのだ」
 メイド服の女は、そろそろ、と小舟を降り立ち、こちらへやってくる。
「ふぉふぉふぉっ。中居さん、察しがいいわね。私は誰? レディー・シナモンのモデル。いえ、シナモンそのもの──そうよね、佐藤さん? 早く認めなさい。認めないと……」    
 長い髪をしたお局様が歯をみせた。


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