伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第17回/伯爵令嬢シナモン『容疑者竹久夢二』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

第17回/伯爵令嬢シナモン『容疑者竹久夢二』


17回/伯爵令嬢シナモン『容疑者竹久夢二』

 

Lady Cinnamon Part ‐Ⅳ

,Age 18, In 1929

伯爵令嬢シナモン

『容疑者竹久夢二』

 

 その頃── 

「鈴木大尉、斥候が戻ってきました。榛名湖畔にある別荘の一つに逃げ込んだとのこと──」

 憲兵隊を率いる鈴木大尉とその麾下二十名が榛名山を登ってきた。

「ドロシー・ブレイヤー。変装しても無駄だ。それほど四肢の長い日本人などどこにおる。整いすぎた容姿はかえって仇となる者よのおっ。──それにしても『高崎の老人』……戊辰戦争の残党である爺、『軍艦島』ではしてやられたが『地図』を奪ってから殺してやる。手足を火で焙りながらじわじわとな」

 鈴木が舌なめずりした。

  榛名湖畔の別荘は二階建てのバンガロウである。手入れの行き届いた芝生の庭にはまばらに白樺の木が配され、さやさや音をたてている。黄金の髪をした若い貴婦人と少し年上の女性執事は、木陰に置かれたテーブルでチェスをしていた。

「チェック」

 黄金の髪を後に束ねた貴婦人が、しなやかにのびた指で、クイーンの駒をつまみ、相手の馬頭形をした駒ナイトを弾いた。

「レディー・シナモン。鈴木大尉を『修道院島』で始末しなかったのが、いまなお尾をひいていますよ」

「すみません、ドロシー博士、あなたまで巻き込んでしまって」

「いえ、私も『反物質原石《エクスカリバー》』の件では祖国の委託で調査をしていたところ。それにしても『海賊』どもが……」

 ドロシーは「軍艦島」で片腕を負傷している。残る片腕で拳銃を化粧ケースからとりだすと、椅子に座ったまま銃口を迫りくる一団にむける。一団の中にいた指揮官が舌なめずりしてから叫んだ。

「あの娘、また毒をあおるかもしれぬ。解毒剤はあるな?」 

「もちろんですとも、大尉。毒をあおっても、吐かせてから、たっぷり楽しめますよ」

 黄色い声をあげる憲兵たちがいままさにバンガローに突入しようとしたとき、桟橋に横付けしてあるヨットの上から声がした。

「『姫君』は菩薩の化身だ。貴様ごとき下郎が指を触れる方ではない」

 湖側に顔をむけた鈴木は狂喜した。

「『高崎の老人』隼人。一網打尽とはこのことだ。──二班に分かれる。第一班はバンガロウを制圧しろ。第二班は俺と一緒に爺を取り押さえるのだ」

 鈴木と憲兵第二班は桟橋を走ってヨットに詰め寄った。『高崎の老人』こと隼人はヨットのデッキに立って、一人悠然とキセル煙草をふかしながら、手にはガラス・パネルのようなものを持って鈴木たちに示した。

「鈴木、おまえが望む。大和屋太の二女、菊から切り取った皮膚だ。地図が描かれた入れ墨はここにある」

「ほう、命乞いか隼人。無様なものだな。戊辰戦争のあと大義を捨てて中国大陸に渡り、阿片密売ルートを築き上げた大悪党。引退して大和屋太に後を任せ、いまは群馬のど田舎で女郎屋の店主か──」

「あがりの一部は軍部が吸い上げた。鈴木、貴様も甘い汁をたっぷり吸ったはずだ。あの『お宝』ほしさに部下に命じ大和屋を暗殺させたのは貴様ではないのか? ──まあよい。この地図、欲しくばくれてやろう」

 顎をしゃくりあげた鈴木が部下に、「踏み込め」と命じると、憲兵たちが桟橋から一気に駆け上がった。

 百メートルほど離れたバンガロウの屋内から銃声が鳴り響く。降伏をよしとしない豆吉ほか隼人の部下たちに、家宰も加勢し、抵抗していたのだ。

 ドロシーは、シナモンの車椅子を押して、白樺の古木裏側に回り込み、憲兵数名とにらみ合っていた。シナモンが、「いけない。隼人様! 」と戦闘中のバンガロウから桟橋に顔をむけて叫んだ。

.

 ――琴となり、下駄となるのも桐の運……。

.

 殿がつくられた一句を辞世の句に頂戴いたす。隼人は、くわえていたキセルの火をデッキに落とした。刹那、噴煙と共にヨットが、繋留した桟橋の先端ごと吹っ飛び、憲兵隊第二班の大半が爆風で弾き飛ばされ、少しさがったところにいた鈴木も湖面に投げ出された。 ドロシーが銃弾を撃ち尽くしたとき、湖からはい上がったばかりで、ずぶ濡れになったままの鈴木が、「隼人の阿呆め。本当の『お宝』は満州そのもの。おまえと大和屋が築いた阿片流通網──これこそが財宝だ」と高笑いしたあと舌なめずりして、白樺の木に迫って、いまにもシナモンたちに躍りかかろうとしたときのことだ。外輪山の坂道の高みに騎馬隊一個中隊が姿を現し、一気に坂を駆け下り降りてきた。

「スコルツェニー君、爆死したのは例の家臣か?」

「そのようです。ハウスホーファー教授」 

「噂にきく本物の侍。最後を看取ったというわけか──」

 一団の中には、甘粕、川島芳子、それにスコルツェニー、ハウスホーファーといった顔もあった。新手というわけではなく、一団は明らかに敵を鈴木に定めている。先頭にいた甘粕の背後には、騎兵たちが隊列を組んだまま止まって銃口をむけた。  

「鈴木大尉。伯爵令嬢シナモン襲撃の件もカメラマン中居氏が写真に収め、大山公爵閣下が現像した写真を陛下におみせした。また貴官の言葉は、電話交換所で『何者か』が盗聴し、録音したレコード盤を、アメリカおよびイギリス大使館に送りつけている。軍部だけで内密に処理はできぬ。陛下のお耳にも達したのだからな!

 ドロシーが木の裏側からでてきて、そのままにしたあったテーブル上のチェス盤に、「チェック・メイト」とつぶやき駒をおく。鈴木は往生際が悪い。部下たちとともに、モーターボートのところまで逃げようとしたのだがボートのところには林忠崇卿が立っていた。「どけ、爺っ!」 

 鈴木は至近距離から拳銃で忠崇卿を撃とうとした。だが、それよりも、早く、仕込み杖の刀を引き抜いて拳銃を握った相手の腕をなぎ払った。たまらず鈴木は膝を土につけ、のたうちまわって泣き叫んだ。

「死にたくねえ。いやだあ。銃殺だなんていやだあ」

  甘粕が一瞥した。

「銃殺だと? 陛下が貴官のために特別に青酸カリを賜れた」

 取り押さえられた鈴木は、なおも、暴れ、わめき続けたが、一味ともども縄で縛りあげられたのだった。

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