伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第12回/伯爵令嬢シナモン『容疑者竹久夢二』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

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第12回/伯爵令嬢シナモン『容疑者竹久夢二』

第12回/伯爵令嬢シナモン『容疑者竹久夢二』

Lady Cinnamon Part ‐Ⅳ
,Age 18, In 1929
伯爵令嬢シナモン
『容疑者竹久夢二』


 忠崇卿は、一度話を中断して船室におりていき、大輪の花を二つもってきた。蓮の花だ。
「頼みがある。二人で蓮をもってもらいたいのだ」
「なにゆえにですか?」
 ドロシーが一輪うけとり、サングラスを外した。
「座興じゃ、余も隼人も若いときは戦地をさすらった。極楽にいけるとは限らぬ。地獄に落ちる前に天女というものを垣間みたいとおもうたまで」
 そういって崇崇はもう一輪をシナモンに渡したのだった。
.
 ――まさしく天女!
.
 と思ったのは忠崇と隼人だけではない。甲板にいた人々のすべてがそう感じたのだった。  黄金の髪を風にあそばせ、しなやかにのびた腕に蓮花をたずさえている。
「蓮花は泥水をつらぬいて昇華する、ゆえに尊い」
 舵輪をゆっくり回しながら隼人老人がつぶやいた。

勿来ノ関というのは、古来朝廷が、奥州に根ざす騎馬の民、蝦夷南下をくいとめる最大級の防衛線であった。勿来山とよばれる山塊が海にまで張り出した難所である。この難所には江戸時代にトンネルが掘削され、奥州磐城国から常陸国平潟に、荷車を通してやることができるようになっていた。.
 トンネルの奪取こそが平潟奪還の要となる。周囲は尾根、谷、雑木といった障害物の多い地形だ。そこに官軍は狙撃兵を布陣させた。
 対する奥羽列藩同盟軍は、二陣に別れて進軍していた。第一陣は、磐城三藩と呼ばれる地元諸藩を主力にしたもので、直線ルートである山沿いの街道を通って進軍した。第二陣はやや遠回りである海岸線の間道を通って進軍した。遊撃隊百名も二軍に別れて進軍した。
 第一陣に参加した部隊は、長い白兵戦ののち、斬り込み突撃をかけたのだが、意外な敵に進路を妨げられた。
 平潟港に停泊していた官軍軍艦富士山丸の存在である。富士山丸は、同盟側陣営に艦砲射撃を加えた。ために、トンネル奪取を目論む奥羽列藩同盟軍の第一陣は、激戦の末に撤退を余儀なくされたのである。
 第一陣が後退して、第二陣が前面にたった。主力は仙台藩で総勢五百名に達していた。遊撃隊の後軍である林忠崇隊も加わっていた。第一陣よりもすこし下がったところなので、艦砲射撃はない。遊撃隊士二十名からなる抜刀隊精鋭が、銃撃戦の絶え間に、斬り込み突撃をかけた。だが、ここでも意外なことが起こった。背後にいた相馬藩兵はその場に立ちすくんだ。前線で、斬り込み突撃をかけた遊撃隊に友軍は続かず、官軍側狙撃兵の餌食となった。 そのうちに平潟港をでて北に回り込んだ富士山丸が、ふたたび艦砲射撃を加えたのだ。
 同盟軍主力をなす奥州一の大藩仙台藩兵は、泰平二百六十年で、侍というよりは役人になってしまった。富士山丸の大砲が鳴ると、後方にいたにもかかわらず、前線にいた林忠崇たちを置き去りにして、我先に、と戦わずして逃げ出したのだ。このような現象を「裏くずれ」という。最前線に、遊撃隊士二十名がとり残された。
.
 ――徳川宗家万歳!
.
 天を仰いだ十九歳、切れ長の青年武将は、一人斬り込みをかけるべく愛馬の栗毛にまたがり抜刀した。
 水蒸気をふくんだ空は青を淡くした色だ。雲まで霞んだ感じだ。勿来山の山裾が海に突きだした岬から、官軍側の蒸気船富士山丸の砲弾が規則正しくこちらに飛来しては炸裂し、岩盤と土砂を弾き飛ばしていた。勿来海岸と呼ばれる長い浜沿いに、官軍勢は、じわじわ、と間を詰めてくる。
 走り駆けた馬の手綱にくらいついたのは隼人である。そこに遊撃隊の幹部たち、隊士たちがつぎつぎにしがみついてきた。
「殿が犬死になされたら、徳川宗家の再興は誰がなさるのか!」
 人だかりができて馬をとめた。そのとき、おぞましいばかりに砲弾を撃ち込んでくる富士山丸に、砲弾が飛んできてマストを吹き飛ばした。
 隊士たちは口々に、「なっ、なんだ。同士討ちか? 誤爆か?」と叫んだ。
 富士山丸が、弾丸を飛ばしてきた相手は、勿来海岸のはるか北方にいるようだ。同盟軍は逃げ散って軍勢などみえない。富士山丸はそこに報復砲撃を加えた――のだが全弾が外れた。さらに北から飛来したもう一発が甲板を貫き、砲弾火薬を誘爆させ、戦闘不能状態に陥ったのである。堪らずず富士山丸は反転し平潟港に逃げかえった。
 忠崇は、富士山丸を撃退した砲弾を撃ち込んだ方角を拝して、麾下二十名の隊士に下知した
「天佑だ。これよりわれらは、第一陣に参加した遊撃隊前軍の救援にむかう。続けえっ!」
.
 ――応っ!
.
 隊士たちは白い歯をみせて、浜に植え込んである松の防砂林に駆け込だ。遊撃隊を救ったのは、第二陣に加わっていた山田省吾という地元、平藩士だった。友軍が逃げ散るのを後目に、一人残って七ポンド山砲で応戦したのである。
 痛快な逆襲を成功させたこの男は、戊辰磐城戦争の最終防衛拠点である平城(たいらじょう)が陥落するとき、市街戦のなかで討ち死にしたときく。少ないながらも、同盟軍にも侍はいたのだ。
.
 ――ここで第二陣の仙台藩兵が反転し、逆襲してきたら。
.
 官軍が一瞬ひるんだ。千載一遇のチャンスだ。遊撃隊は、忠崇率いる後軍が、前線の松林で孤立している前軍を援護射撃し、前軍が呼応して退いてくると歩調を緩めながら少しずつ後退する戦術をとった。ために松林を北に抜けた浜街道で、遊撃隊前軍二十名が、後軍二十名と奇跡的に合流することに成功。隊士は四十名に回復した。
 だが新式銃で武装した官軍勢は数百あり、仙台兵が逆襲してこないこと、遊撃隊が寡兵であることを知って、雪崩をうって追撃してくる。
 遊撃隊士は、敵が銃弾をとばすなかを、反撃しては引く、ということを繰り返しながら撤退し、新田峠というところでどうにか敵を振り切った。 夕刻、坂道をのぼる遊撃隊士たちは歓声をあげた。「しんがり」にいた隼人が馬上の忠崇に、「やっ、やりましたなっ、殿!」と声を弾ませると、忠崇もはにかんでみせた。
 新田峠は、街道最大の難所で、そこに後退した同盟軍が集結していたのだ。泉の町の西側後背にある低い山塊で、谷間と峠が入り混じった複雑な地形をしている。
 古来より、撤退戦術ほど難しいものはないとされる。包囲をされながら、麾下をパニックにさせずに志気を保ち、十倍する敵とわたりあいながら、帰還に成功した遊撃隊と、十九歳の武将がもつ才覚・胆力に、同盟軍の誰もが舌を巻いたのはいうまでもない。
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