伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第24回/伯爵令嬢シナモン 『飛行船の殺人』第3章6
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

第24回/伯爵令嬢シナモン 『飛行船の殺人』第3章6

エドガー博士

23667-00032[1] 

 高い時計塔のある駅舎、全長二百メートル強の大屋根のホーム。重厚な宮殿を思わせる新古典様式のセントパンクラス駅だ。列車に乗り込んだ養父を、若い画家が見送っていた。
「やっぱり僕がいく」
「気持ちだけ受け取るよ。おまえでは成功率が低すぎる。一緒にくるなんていいいだすなよ。足でまといになる。残念なことに私は『この道』のプロになってしまった」
 ホームから列車の窓を見上げている青年はいまにも泣きそうな顔になっている。汽笛が鳴って、ドーバー行きの汽車が走り出した。老紳士は窓枠から手を振り、見えなくなるとトランクを少し開けて中を確かめた。中には毒物を混入させたワインボトルがあった。
 シナモンが抱きしめたとき、老紳士は瞳を閉じた。顎髭の船長は言葉を失った。読書室の後ろに隠れていた佐藤と中居も大泣きしている。

 カンタレラは豚の血を腐らせてつくる屍毒だ。スペインに興った貴族ボルジア家は、十五世紀末から十六世紀初頭になると、ローマ法王アレッサンドロ六世を輩出。イタリアで地歩を固める。法王の落胤チェザーレは、当主となるや政敵をつぎつぎと倒して勢力を拡大していく。最大の武器がその毒薬だった。カンタレラは、料理やワインによく馴染み、分量を変えることで殺害時間をも調節できたのだという。
 ボルジア家はチェザーレの死によって断絶し、毒薬の製法は謎とされてきた。しかし父親である法王が、秘毒製造に関する手記をヴァチカンに遺しており、そこが四百年にも渡って外部に漏れぬよう厳重に封印してきた。ところが二十世紀初頭に、法王の手記が盗まれ、闇市場を経て、イギリス諜報機関の手に渡った。文献解読班に博士は属していたのだ。
 この物語の十年後である第二次世界大戦中、イギリス首相チャーチルがナチス・ドイツのヒトラー総統を毒殺する計画を立てたとき、使用予定の毒物こそがカンタレラだった。結局、作戦は、首相公設秘書になったレディー・シナモンの強い反対によって中断された。大戦初期に独裁者が暗殺されたとすれば、英雄となり、ナチスは今日も生き残っていたかもしれない。もう一つの物語である。
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theme : 自作小説(ファンタジー)
genre : 小説・文学

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