伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第7回/伯爵令嬢シナモン 『修道秘宝』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

第7回/伯爵令嬢シナモン 『修道秘宝』

G.L.ベル

挿絵(By みてみん)

 発掘作業は再開された。ロレンスや巡査も作業に加わった。浜岸には砂と泥が堆積しており、修道士ケイの遺体はそこにまだある。庭師夫婦と少年が遺体の周囲を、パレットナイフで薄く削って清掃し、シナモンとベルが写真や実測図の記録をとった。記録作業が片づくと、総出で、担架がわりの平たい板を遺体の横におき、下に滑り込ませた。
「ふう、冷や汗がでたわ」
 ベルがつぶやいた。
 シナモンの横にきたチャーチルとロレンスが、修道士が握る「聖石」をみた。ベルがつぶやいた。
道化もいいところだわ、私たち。これは粘板岩。どこにでも転がっている石よ」
「ただの石ころだと?」
 チャーチルがくわえた煙草を落として、額に手をあて、天を仰いだ。
「なんだあ。『お宝』じゃなかったのかあ」
 若い巡査が呆れたように笑った。
 シナモンは、落胆した様子の周囲とは無関係な態度で、黙々と所見をノートに記していた。
 修道士ケイの遺体は学術的な価値がある。ロレンスが古巣の大英博物館に連絡した。保存のためロンドンに運ぶこととなった。近日中に学芸員がやってくる。その間、遺体は温度が低い教会地下室に保管することになった。
 チャーチルが修道院島を離れたころ、調査を終えた島の波止場からヨットに乗り込んだ初老の学者が、黄金の髪をした若い貴婦人に訊いた。
「ねえ、シナモン。あなた、ほんとは『聖石』のありかを知っているでしょ?」 
「『コンウォール年代記』そのものが、修道院唯一の生き残りであり著者でもある修道士ガヘリスが仕組んだトリックなのです。本物はというと──」
レオノイス大聖堂は、駅と波止場に挟まれた市街地の中にある。霧雨が降っている。傘をさした初老の女性考古学者ととても若い貴婦人の二人連れが、大聖堂裏にある聖職者用の墓地を訪れたのは昼前あたりだった。
「墓に『聖石』を?」
「あくまでも候補地の一つです。『コンウォール年代記』に示された『聖石』を巡っては、読んでからいくつかの候補地を選定してみました」
「ほかには?」
「順を追って参りましょう」
 墓地は林檎の木が植えられ、合間には古い墓碑が点在していた。苔むして名前がどうにか読める修道士ガヘリスの墓碑も傾いて立っており、シナモンが示した墓碑にはラテン語でその人の洗礼名と生没年が記されていた。
「ヴァイキングに襲撃された『修道院島』を命からがら逃げ出したガヘリスは、後半生を大聖堂教会で過ごします──しかし、考えてもみてください。修道院にとっての至宝であった『聖石』。ガヘリスは修道院院長が、強固な信仰心を見込んで託した人物なのですよ……墓穴にまで持ち込むことを望むでしょうか?」
「まずないかな。それに、死んでから誰かに託すわけだから、『海賊』に襲われた体験のあるガヘリスは他人に対して用心深くなっているはずよね」
 ベルがシガレットケースから、煙草をとりだしてくわえ火を点けた。 
 故人の墓碑に黙祷を捧げると、シナモンたちは第二の候補地にむかって歩き出した。
 裏手の司祭らを葬った墓地から、正面にまわって、内装をステンドグラスで飾った、石造りで、ゴシック様式の大聖堂に進み、鐘楼の螺旋階段を昇っていった。
「ふう。私も歳をとったわ」
 息切れをしたベルがいった。
 鐘のところにある窓から、西を望めばリザードの街並みとその奥にある港と大西洋があり、身を転じて、東を望むとリザード川、さらに奥で修道院島が小さくみえる。
 黄金の髪を後に結わえた、とても若い貴婦人が、修道院島を指さし、初老の女性考古学者にいった。
「第二の候補は修道院島──修道士ガヘリスたちそのものが、ヴァイキングを『聖石』から遠ざける囮だった──ということもあり得るのではないか?」
「なるほど。本物を深井戸にでも沈めておき、さも宝物は川底に沈めたかのように偽装した──と?」
 シナモンが微笑した。
「第三の候補は、『聖石』など、はじめから存在しておらず、『アーサー王』物語のような架空のもので──修道士ガヘリスの墓そのものが、後世の人がこしらえた捏造品──ということ」
「第二、第三候補──どちらもあり得るわ。第三候補なんかは、ファンタジーを楽しんでしまうわが国の国民性。いえ、もう病気ね」
 笑いながらベルは続けた。
「でもシナモン──あなたは第二、第三候補ではない第四候補を想定している。でなければ、私をここまで引っ張り出さないはずよ」
「ベル先生。では第四候補の場所へ参りましょう──」
 『コンウォールの才媛』のサファイアの瞳が光った。

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1930年前後の歴史推理小説 シナモンと素敵な旅をどうぞ

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