伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第6回/伯爵令嬢シナモン『修道院島の秘宝』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

第6回/伯爵令嬢シナモン『修道院島の秘宝』



ヴァイキング船

挿絵(By みてみん)

 黒帆ヨットのデッキにいた鈴木大尉が、(撃て)と片手を挙げかけたところを、双眼鏡をのぞき込んでいた甘粕が、慌てて、その腕を、ねじ伏せるように、押さえつけた。鈴木が、「何をする!」と怒鳴った。コクピットからデッキに出る階段を、一気に駆け上がろうとした日本兵たちの動きが止まった。
 シナモンとベルを乗せた白帆のヨットは、いあがみあう形で浜岸近くに投錨している黒帆と赤帆の間に割って入った。
 黄金の髪の貴婦人が、頬に傷のある少年をデッキにみつけて、笑みを浮かべた。
「スコルェニー様ではありませんか。お久しぶりです」
「シナモン、また綺麗になったね。夏になると君の顔がみたくなるんだ。僕もロレンスさんと同じさ。いるんだろ? 島に?」
 シナモンがうなづき、隣にいるベルを紹介した。
「こちらはベル様、私の恩師です」
「あのベルか? イラク王室顧問ガーナード・ローザン・ベル。シナモン、いつもながら君の周りには、歴史をつくるような人たちが大勢集まってくる!」
 スコルツェニーは、流暢な英語で、赤帆のヨットのデッキにいる二人の男を見やった。
「G・L・ベルにロレンスだと。ロレンスというのは、あの『アラビアのロレンス』だというのか? ここは社交場か?)」
 甘粕と鈴木大尉は顔を見合わせた。スコルツェニーが続けた。
「日本人のみなさん、ご紹介しましょう。レディー・シナモンといって、修道院島と周辺河川水域を所有するレオノイス伯爵家のご令嬢です。お話しのように、イギリスの名士たちが集まってきてますよ。望遠鏡で島をのぞいてごらんなさい。初老の紳士がいるでしょう。あれがウィストン・チャーチル──未来の大英帝国宰相です」
 シナモンのヨットに同乗していたベルが一言加えた。
「スコルツェニーさんとおっしゃいましたね。伯爵家恒例の『狩り』が催されるのです。よろしければ、飛び入り参加なさいません? 日本から来られたお連れ様もご一緒にいかが?」
「『狩り』?」
 望遠鏡をのぞいた甘粕が、隣にいた鈴木大尉に望遠鏡を渡した。修道院島を挟んだリザード川の両岸に、小銃・ロケット砲まで構えたけっこうな数の人影が森や茂みに潜んでいる。あわせて一個中隊はいるだろう。
「未来の宰相があんな小さな中洲にきているのだ。世界一の戦術家が護衛を伴ってくるのは当然といえば当然」
 甘粕が小声でいうと、鈴木大尉は呆然とした。
 そこへ家宰の乗ってきた汽船が追いついてきた。
(やはり姫様は凄い。一発の弾丸も撃たずに『海賊』どもを押し戻した!)
 帆船が方向転換するのは面倒なものだ。大回りしなくてはならない。黒帆と赤帆、二隻のヨットは、白帆のヨットと汽船に曳航される格好で、バンガロウのある修道院島上流側突端を回って、下流へと引き返していった。
「われわれは、あの少女に、命を救われた。もし彼女がここに来なければ、我々は、ロレンス中佐麾下の部隊に、皆殺しにされるところだった。信仰からくる博愛精神か? いや、どちらかといえば『騎士道』に通じるものがある。大英帝国淑女シナモン。覚えておこう」
 送り届けられて中洲から離れていく二隻のヨット。赤帆の甘粕と、黒帆のハウスホーファー博士が同じことを、それぞれの船上でつぶやいた。
 「海賊」どもを下流に送ったシナモンが、修道院島の船着場に戻ってきた。葉巻を加えた紳士がチャーリーという名のオウムを撫でながら、隣にいた将校にいった。
「『コンウォールの才媛』という異名があるそうだね。さすが、あのベル女史に気に入られることだけはある」
「チャーチル閣下も好きになられたようですね」
「あの娘を嫌いになる輩は、よほどのへそ曲がりだ。ロレンス君、儂が、そんなに、へそ曲がりにみえるかね?」
「いえ……」
 初老の政治家がはにかんで葉巻をくわえて、
「レディー・シナモン。きたるべき『大戦』には、あのような強い意志と聡明な頭脳を祖国は求めることになる」
「秘書にお望みですか?」
「欲しい。
頭脳ブレーンとしてな──」 
 チャーチルがロレンスに一本勧めた。
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