伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 伯爵令嬢シナモン3「修道院島」第1章19
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

伯爵令嬢シナモン3「修道院島」第1章19

 

前回までの粗筋
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 1920年代末。群馬県での殺人事件容疑者となった竹久夢二。知人の萩原朔太郎は、佐藤記者を介して、レディー・シナモンに捜査を依頼する。シナモンの一行は手分けして捜査を開始。事件関係者を結んでいくと捜査線上に戊辰戦争で活躍した林忠崇という元大名が浮かびあがってきた。榛名湖のヨットで、シナモンたちは林忠崇のもてなしをうけ、戊辰戦争の武勇伝をきかされるのであった。
 平潟攻略線で、遊撃隊後軍隊長忠崇は前線に取り残されていた。忠崇の運命やいかに----。
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主要登場人物
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レディー・シナモン:英国伯爵令嬢・考古学者。「コンウォールの才媛」の異名がある。 ②ドロシー・ブレイヤー:日本古代建築・ガラス工芸の研究者で伯爵家執事。 ③佐藤と中居:雑誌『東京倶楽部』の記者とカメラマン。 ④スイーツマン・ウルフレザー:伯爵家の老家宰。 ⑤竹久夢二:殺人容疑者の画家。 ⑥萩原朔太郎(はぎわら さくたろう):依頼人で群馬県の詩人。 ⑦萩原愛子(はぎわら あいこ):朔太郎の妹。 ⑧長尾警部:群馬県警警部。 ⑨「高崎の老人」隼人:士族出の女郎宿店主。 ⑩豆吉(吉之助):士族出の車夫。 ⑪:豆吉と失踪した女郎。 ⑫黒岩梅:殺人事件被害者。 ⑬大和屋太(やまとや ふとし):麻薬商人。 ⑭林忠崇(はやし ただたか):無爵華族で請西藩の元藩主。
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  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※

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 水蒸気をふくんだ空は青を淡くした色だ。雲まで霞んだ感じだ。
 勿来山の山裾が海に突きだした岬から、官軍側の蒸気船富士山丸の砲弾が規則正しくこちらに飛来しては炸裂し、岩盤と土砂を弾き飛ばしていた。
 勿来海岸と呼ばれる長い浜沿いに、官軍勢は、じわじわ、と間を詰めてくる。
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 走り駆けた馬の手綱にくらいついたのは隼人である。
そこに遊撃隊の幹部たち、隊士たちがつぎつぎにしがみついてきた。
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 ----殿が犬死になされたら、徳川宗家の再興は誰がなさるのか!
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 人山が馬をとめた。そのとき、おぞましいばかりに砲弾を撃ち込んでくる富士山丸に、砲弾が飛んできてマストを吹き飛ばした。
 隊士たちは口々に、
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 ----なっ、なんだ。同士討ちか? 誤爆か?
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 と叫んだ。
 富士山丸が、弾丸を飛ばしてきた相手は、勿来海岸のはるか北方にいるようだ。同盟軍は逃げ散って軍勢などみえない。
 富士山丸はそこに報復砲撃を加えた。----のだが全弾が外れた。さらに北から飛来したもう一発が甲板を貫き、砲弾火薬を誘爆させ、戦闘不能状態に陥ったのである。
堪らず富士山丸は反転し平潟港に逃げかえった。
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 忠崇は、富士山丸を撃退した砲弾を撃ち込んだ方角を拝して、麾下二十名の隊士に下知した。
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 ----天佑(てんゆう)だ。これよりわれらは、第一陣に参加した遊撃隊前軍の救援にむかう。続けーっ!
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 ----応ーっ!
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 隊士たちは白い歯をみせて、浜に植え込んである松の防砂林に駆け込だ。
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 遊撃隊を救ったのは、第二陣に加わっていた山田省吾という地元、平藩士だった。友軍が逃げ散るのを後目に、一人残って七ポンド山砲で応戦したのである。
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 痛快な逆襲を成功させたこの男は、戊辰磐城戦争の最終防衛拠点である平城(たいらじょう)が陥落するとき、市街戦のなかで討ち死にしたときく。少ないながらも、同盟軍にも侍はいたのだ。
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 ----ここで第二陣の仙台藩兵が反転し、逆襲してきたら。
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 官軍が一瞬ひるんだ。
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 ----千載一遇(せんざいいちぐう)。
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 遊撃隊は、忠崇率いる後軍が、前線の松林で孤立している前軍を援護射撃し、前軍が呼応して退いてくると歩調を緩めながら少しずつ後退する戦術をとった。
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 松林を北に抜けた浜街道で、遊撃隊前軍二十名が、後軍二十名と奇跡的に合流することに成功。隊士は四十名に回復した。
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 だが新式銃で武装した官軍勢は数百あり、仙台兵が逆襲してこないこと、遊撃隊が寡兵であることを知って、雪崩をうって追撃してくる。
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 遊撃隊士は、敵が銃弾をとばすなかを、反撃しては引く、ということを繰り返しながら撤退し、新田峠(しんでんとうげ)というところでどうにか敵を振り切った。

 夕刻、坂道をのぼる遊撃隊士たちは歓声をあげた。殿(しんがり)にいた隼人が馬上の忠崇に、
「やっ、やりましたなーっ、殿!」
 と声を弾ませると、忠崇もはにかんでみせた。
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 新田峠は、街道最大の難所で、そこに後退した同盟軍が集結していたのだ。
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 古来より、撤退戦術ほど難しいものはないとされる。包囲をされながら、麾下をパニックにさせずに志気を保ち、十倍する敵とわたりあいながら、帰還に成功した遊撃隊と、十九歳の武将がもつ才覚・胆力に、同盟軍の誰もが舌を巻いた。
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  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※
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後 記
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 「あっ、先輩じゃないっすか!」
「中居か、どうしたんだ、その姿は----」
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(《どこまでも》つづく)

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  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※
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コメント

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2010/01/18 17:52
 歴史学を科学として捉えるみかたは、英国の歴史家E・H・カーという方が書いた『歴史とは何か』というバイブルで、(過去に対する裁判官になるのではなく、対話である)つまり、道徳観と歴史的事実とは切り離せといっているわけです。とかく近代史は、歴史家ではないところの政治家どもが横槍を入れたがるところ。(うざ~)
 ----しちめんどくさい理屈はさておき、小説として、楽しんで戴ければ幸いです。

 中居~。

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2010/01/18 12:37
こうやって維新の頃の歴史を振り返ると・・・
日本国内で凄まじい内乱があったのですよねぇ。
学校教育とかで、近代史をあまり教えないじゃないですか。
本当は、現在を生きるためには、
明治維新から以降の歴史が一番重要なのだと思います。

中居さん・・・、どうなっちゃったのぉ~?  
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2010/01/18 07:10
BENクー様

山田省吾、遊撃隊の猛者たち。魅力的なサムライ。
サムライがサムライとして美しいのは、そう、「覚悟」ですよね。
やはり刀をさしているだけでは。

勝てば官軍。よくきく言葉。どちらかといえばわが家は、郷士にして志士であり、官軍びいき。ですが、地元でもあり、少ないながらも、こうした佐幕系のサムライたちがいたことを知ると目頭が熱くなります。
 
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2010/01/18 07:02
咲様

史実ですけれど。ドラマチックな展開ですよね。そう、遊撃隊は勇者たちでした。
犯人の特定と殺人の動機……まあ、おいおい。

猫佐藤がしょうもないものを咲さんに。困ったお人、いえ、猫でした。猫ゆえの性でしょうかね。  
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2010/01/18 04:54
山田省吾の奇跡の援護射撃や主君の意思に準じる覚悟のある侍たちの奮戦・・・歴史を顧みて判断できる立場にあるものは心しなければならない大事なことを気付かされるシーン。時代の流れに生きるものが持つべき大切なもの・・・それは「覚悟」ではないでしょうか。戦争では、必ずこうした覚悟のあるものから先に死んでいくのが惜しまれてなりません!
朝敵となるのを嫌った徳川慶喜の決断が生んだ悲劇といえる幕末の戦い・・・勝つ者が作るのが歴史なら、敗軍の勇士を語り継げるのが説話や物語=小説!
「勝てば官軍」・・・ここにある言葉の響きには、少しも人間の尊厳さがないので大嫌いです。(…ちょっと感情的になってしまいました…汗々)
何にしても、私もこんな勇士たちの存在をもっともっと見つけて書きたいと思うばかりです。

地下にいたのは中居氏・・・? 一体何をしているのか・・・www
アバター
2010/01/17 23:36
絶体絶命の状況で、痛快な反撃の一矢。
何か身を守る壁のようなものがあるならまだしも、生身で艦砲砲撃を受けるというのはどれだけの恐怖でしょう。そこを踏み止まって冷静に戦局を乗り切る遊撃隊士達は真の猛者です。
こんな武勇を残すような人物が殺人を起こすとしたら…一体どんな動機があるのでしょう。

佐藤氏が地下迷宮で出会ったのは中居さんだったのですね。しかし…一体どんな姿に?
こんな過酷な状況にも関わらず贈り物をくださるその男気には惚れ惚れいたします。 
アバター
2010/01/17 22:57
 日々の鍛錬。戦地での実戦の繰り返し。
 常人離れした行動力は、「徳川家守護者」という立場での志の高さでしょうね。
 当時の幕閣に、いずれは幕閣の器だと評された俊才であったともいいます。  
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2010/01/17 22:45
では、現代で考えると、まだ高校生ですね?!
太平の世で、彼は、武士としての性質をどうやって身につけたのでしょう。
興味が湧きました ^^  
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2010/01/17 21:55
資料に注釈がないため、素直に考えて数えの可能性があります。
三十、四十を越えた武士たちが総崩れをおこすなか、二十そこそこである忠崇の奮戦は刮目に値しますよね。  
アバター
2010/01/17 21:51
19歳(数え年でしょうか?)の武将……。
混乱期には、誰もが 早く大人にならざろうえなかったのでしょうね。

中居さんまで、大変な事に?!  
アバター
2010/01/17 21:18
あさかぜ飛馬

こういう人物の死は惜しいですよね。できれば明治・大正と生き抜いて地域の指導者になって欲しかったものです。  
アバター
2010/01/17 21:12
山田省吾という侍、すごいですね

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せ、先輩、ルパンだあ~っ!

 

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おはようございます

おはようございます。
今日は少し暖かいようでいいですね。

改めて林の若殿のすごさを思いますね。
戦で助かったのは紙一重だったのでしょうね。
殿軍は古来難しいですよね。
本当にあの若さでたいしたものです。
山田省吾もほんとに侍ですね。
何より錦の御旗は強かったのでしょうね。
天皇を巧妙に利用し、持ちつ持たれつ本当に日本はうまくできていると思います。
お友だちのご紹介ありがとうございました。
ゆっくり今度見せていただきます。

Re: おはようございます

林忠崇は3度も生命に関わるような白兵戦を経験しました。
討ち死にしなかったのが不思議なくらいです。
ほんとに魅力的なキャラクターですねえ。

山田省吾も地元歴史オタクには知られているのですが
一般人は知りません。
寂しいかぎりです。

おはるさんは、酒井さんとおなじくハードボイルドをなさっています。
やはりプロの文は歯切れがよくていいですねえ。







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