伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第26回/アンモナイト
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

第26回/アンモナイト

第五章 アンモナイト

 正月が明けると間もなく大学は後期試験期間になる。Uターンのとき、恋太郎は、愛矢と同じ急行列車「赤影」に乗り、上野で別れて四ツ谷にある雫のマンションに向かった。
 雫は先に帰っていて恋太郎を出迎えた。海老のムース、豆のクリームスープ、肉料理と、テーブルの上には覚えたての料理が並べられ、冷えたワインまで置かれていた。恋人上京に先立って、愛矢は雫に海猫町で知った螢が巻き込まれた悲惨な事件について電話をしていた。そして、「優しくしてやってほしい」とも付け加えている。悪友はさりげなく幼なじみを気遣うのだ。
 食事を終えると雫は、電子ピアノで弾いた『韃靼人の踊り』をテープ録音したカセットに、ヘッドホンを接続させて、恋太郎に渡した。テーブル上の皿を片付けてから、白い壁に収まったクローゼットの扉を開き、中から布袋を取りだした。縫いぐるみの「目」ばかりが入っていた。それを卓上にばら撒いて適当に掻きまぜる。するとどうだろう。大観して「目」の形になったではないか。
「えっ、これは?」
「一般教養で受講した科目に面白いお話があるから再現してみました。昔、動物学・植物学・鉱物学・地質学といった自然科学分野が枝分かれしていないころ、博物学っていうのがあって、研究者の一人がみつけたんだけど、いまだに未解明なんだって。ねっ、不思議でしょ?」
 雫はおどけるようにいった。
 恋太郎は狐につままれたような感覚に襲われた。トリックはない。「神のみえざる手」が働いている。一見混沌とした大小無数の宇宙は、こんなふうに「連鎖」し秩序があるのだ。雫につれられてベッドに横になる。
「ねえ、恋太郎さん。伏羲と女禍って知っている? 中国の伝説にあるんだって。大洪水で神界が滅び兄と妹が生き残って夫婦になった。『旧約聖書』ならアダムとイブを騙して二人を楽園から追放させたのは蛇だけれど、中国版アダムとイヴを描いた絵は絡み合う蛇そのもの。まるでDNA構造みたいでしょ?」
「不思議だ」
 恋太郎は手に持ったヘッドホンを耳に装着し目を閉じた。カセットのスイッチを入れると『韃靼人の踊り』のメロディーが流れだした。雫の膝を借り、胎児のように身体をかがめ、深い眠りに落ちていった。

 アンモナイトは銀河の形だ。行き着く果てには中心太陽があるのだという。億千万の星々は、何十億年とかけて、砂時計の粒のようにそこに降り注ぎ、やがて静かに眠りにつく、宇宙という暖かな海原に彷徨う夢をみながら。砂粒の一つになった恋太郎はゆっくり底に落ちていった。
オウム貝に酷似した螺旋を描く化石たちは、どれだけ眠っていたのだろう?  恐竜は、六千五百万年前に絶滅した。小惑星が落ちたからだって説がある。そのとき道連れになったらしい。
 小惑星が海に落ち、塵と水蒸気が成層圏に舞い上がって暗黒となり地球が冷える。地球は凍てつき、森の木々が枯れて、恐竜たちがばたばた死んでいく。水中では珊瑚も枯れ、魚竜や三葉虫なんかと一緒に泳いでいたアンモナイトも海底で眠りについていった。
 ブナの深い森が珊瑚となり、枝葉の隙間にみえる空を海になっている。螺旋の殻をもった生物は、頭をだし、触手を揺らめかせ、心の深みを泳いでいた。
アンモナイト。螺旋。宇宙の根本原理。太陽を含む恒星、銀河系中心太陽は核融合によって成り立つ。エナジーの流れは螺旋を描くようになる。万物はその縮図。どこかしらに渦を隠している。DNAは雌雄二匹の蛇が絡みあう螺旋だ。
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