伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第25回/アンモナイト
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

第25回/アンモナイト

 中学生とはいえ、町一番の美少女・螢を何とかものにしようと目を付けていた若衆は多かった。彼女が学校から一人で帰宅する羽目となったとき、人通りの少ない崖下の道で、以前からんできた若衆三人が螢を取り囲んだ。
若衆三人が螢の口を塞ぎ羽交い絞めにして抵抗できなくすると、山林に連れ込んで襲おうとしたそのとき、炭鉱夫の若者が駆けつけてきて、連中の背中から次々とナイフで刺してまわった。十七歳の少年だった。
少年は、他の炭鉱夫のように給与が入るとすぐに遊んで使い果たすタイプではなく、地道に貯蓄していくタイプだった。しかし、がに股でお世辞にも美男子とはいえない。螢に思いを寄せてはいたが、高嶺の花ということは承知している。それでも忘れがたく遠巻きにみていたのだ。少年は、螢をみかけると、危険なところを通り抜けるまで見守ってやるという男気もあったのだが、護身用のナイフをいつも懐にしのばせているという凶暴な一面は救いがたく、彼女が襲われているとき頭に血が上って犯行に及んだというわけだ。
 暴漢から少女を守るためなのだから情状酌量の余地があったはずだ。未成年でもある。だが三人を刺殺した少年は絶望した。さらに何を思ったのか、螢の腕をつかんで炭鉱の火薬庫にむかい、管理人に血のついたナイフをみせて脅しダイナマイトを手に入れた。螢を引っ張って坑道奥に入った。
通報があり駆けつけた『茨城巡査』は本署に電話して応援を求めつつ、自らは犯人の説得にあたったのだが無駄だった。応援の警察隊が到着する少し前、少年はダイナマイトを爆発させた。犯人も螢も身体は木端微塵。坑道内部も一時瓦礫で塞がった。また爆風で『茨城巡査』も肋骨四本を折るという重傷を負った。
凶悪事件ながら、犯人が未成年でしかも死亡してしまったこと、被害者の父親が炭鉱オーナーで、亡くなった娘を醜聞で汚すことを嫌い、事件を知る者や報道関係者に大金をばら撒いたり、脅したりして表沙汰にならないようにしたのだ。
負傷し入院していた『茨城巡査』は、「捜査に必要であればしかるべきところで証言もするが不必要なことはいわん」といって札の入った封筒を突っ跳ねた。
 どこで訊きつけたのか若い炭鉱夫たちが、「ヤマの男の心意気」と死んだ犯人を讃えたりもした。けれども弥勒沢の市街地が消滅する十年の時間は長く、人々の口にすらのぼらなくなったのである。

 何が心意気だ。集団強姦されるより酷い無理心中ではないか。殺したら元には戻らない。どのような目に遭おうとも生きてさえいれば幸福をつかむチャンスは巡ってくる。暴漢から少女の貞節を守ったとしても人生を終わらせた少年の罪は許せるものではない。茨城巡査が、話を終えようとしたときだ。
「螢姉さん――」
「よせ、内部は危険だ。酸欠を起こすぞ」
 恋太郎が泣き叫びながら坑道の奥に走っていこうとしていたので、茨城巡査と愛矢が肩をつかまえて止めた。痩せっぽっちの青年は膝を落とし水浸しの坑道の床にへたり込んだ。 
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