伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第32回/ トリスタンの殺人 『伯爵令嬢シナモン1924年』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
line

第32回/ トリスタンの殺人 『伯爵令嬢シナモン1924年』

2012年4月校正

伯爵令嬢シナモン1924年
「トリスタンの殺人」 

サイドカー

終章 天使の輪(1)
 
.
 シナモンが発掘調査を進めていくにしたがって、かもめ岬にセットした試掘坑の溶岩下から武具や甲冑多数をみつけ、また、そこかが、土を突き固めながら構築した砦の保塁であることも発見した。定説では、火山に伴った溶岩とされていた場所が、実は――戦火でどろどろに溶けてしまった古代の砦跡の一部「溶融保塁」であった――ことが証明されたわけだ。 
 考古学者でもあるアーネスト・サトウやT・E・ロレンスが立ち会って、シナモンの発見した「溶融保塁」がローマ帝国と交戦した先住民ケルト族の砦跡の一部であることが追認されたのである。
 
その話題は、コンウオール州の地方新聞どころか、ロンドンの新聞社にも伝わり、十三歳の少女が起こした快挙として──「コンウォールの才媛」あるいは「考古学界の妖精」……という見出しが新聞各社の第一面を飾ったのだった。 
 夏休みの終わり、「かもめ岬の姫君」が、ロンドンに出発する日となり、いつもは閑散としたリザード駅も、その日ばかりは、シナモンを見送る人々でごったがえした。両親であるレオノイス伯爵夫妻はもう少し現地に残って家宰たちと資産管理などの事務処理を行う。それゆえ駅で町の住民たちたちと一緒に娘を見送った。市長夫妻、市議会の名士たちも少女を見送りに出向いたのだが、州警察の警部は多忙なため駐在の若い巡査に感謝の言葉をあらわした手紙を託した。またチャーチルを首班とした諜報機関に属しているロレンスやモーガンも席を外しており、シナモンは少し寂しく思った。 
 狭軌道路線を走る機関車でいくロンドンまでの旅には、両親とサトウ卿が同行するため、何も心配することはない。シナモンが、ホームから客車に乗り込もうとしたとき、呼び止める声がして振り向くと、ジョージ・セシル夫人エリーが、十三歳の少女を抱きしめた。 
「私が弱かったばかりに、あなたを、危険な目に遭わせてしまいましたね。いつか私が強くなれたら、シナモン──私たちの……娘になってくれますね」
 涙目のエリーをみつめてしばし戸惑っていたカンカン帽の少女はやがて、「ええ、喜んで」と笑みをこぼしたのだった。 
 エリーは後に、ティーパーティーに供されたカップに浮かんだウバ茶のゴールデンリングが、「エンゲージリング」ではなく、天使が頭上に戴く輪にみえたと周囲に話した。そして天使の輪をシナモンが戴いている姿を容易に想像することができたのだとも語った。 
 汽笛が鳴ったのでシナモンはアーネスト・サトウ列車に乗った。シナモンたちを乗せたコッペル機関車はゆっくりとホームを離れていった。ジョン少年、劇の監督を務めた商工会の青年、それに駐在の若い巡査が手を振って後を追った。 
 ジョン少年が叫んだ。 
「姫様、僕が大人になったらお嫁さんになってくださいね。きっとですよ!」 
横で聞いた巡査と青年監督が、年がいもなく少年を羽交い締めにした。 
「ませガキめ、俺の台詞を横取りしやがったな──」 
 その様子を車窓からみていたシナモンはくすくす笑った。列車はリザード川を渡り南の森を抜け、広大な牧草地を走り抜けた。遠くにはいくつかの風車小屋、それにジョージ・セシルの屋敷もみえる。このときシナモンは単線線路に平行した小道を走るサイドカー仕様のBMWオートバイに乗った二人の人物をみつけて、少しはしゃいだ。 
「あっ!」 
「どうしたんだね、シナモン」 
「サトウ卿、ロレンス様とモーガン様が……」 
 老勲爵士は目を細めてみると、二人の男が手を振っているのが判った。 
(女嫌いで有名な『アラビアのロレンス』もシナモンだけには心を開くのだな──あるいはこの二人──まあ、老人の野暮な想像だな……) 
 機関車はサイドカーを追い越していき、やがてロレンスたちやリザード城もみえなくなった。 
「どうなされたのですか?」 
 シナモンは不思議そうな顔で笑みを絶やさずにいる老紳士をみやって訊くと、「なんでもない」と笑みを消した。ごまかすというわけではないが、サトウ卿は鞄から小さな紙包みを取り出し少女に渡したのだった。 
「それは私が日本にいたとき、知人の一人であるアメリカのモース氏から頂いた土器だよ。縄文が入っていて面白い。君にプレゼントするよ」 
 古代エジプトに存在したS字文様がユーラシア大陸の東端に位置する島国にも存在する。のちに「加曽利E式」と呼ばれる一片の土器が、カンカン帽の少女を飛行船の旅にいざなうことになろうとは、このとき誰もが知るよしもないことである。

 
.
P4240159.jpg


【登場人物】

レディー・シナモン/後に「コンウォールの才媛」の異名をとる英国伯爵令嬢。13 歳。

サトウ卿/英国考古学者・元外交官・勲爵士。サー・アーネスト・サトウ。 主要考古学論文『上野地方の古墳群』。

オットー・スコルツェニー/頬に傷のある少年。後にナチスSS大佐となり、「ヨーロッパ一危険な男」と呼ばれる。

T.E.ロレンス/トーマス・エドワード・ロレンス。陸軍中佐。第1次世界大戦の英雄「アラビアのロレンス」。オクスフォード大学卒の考古学者でもある。戦術書として著書『知恵の七柱』が有名。このほか、高校・大学時の中世城郭研究では、当時の学界に一大センセーションを起こした。

スポンサーサイト

theme : 自作小説(ファンタジー)
genre : 小説・文学

line

comment

Secret

line
line

line
Google ペイジランク
ページランク-ナビ
line
奄美剣星
line
文鳥貴族
文鳥貴族
line
最新記事
line
「怪盗めろん」

 

line
「文鳥王トリスタン」
 
line
ブクログ
line
小説家になろう
line
amazon書籍
line
アルパカ版の恋太郎です
line
映画『副王家の人々』より
副王家の一族 
line
イアリング
 ekubo
line
チャイナドレス
chainadoress
line
ポーズ
sofa
line
魯迅記念博物館
inu
line
陽だまりの乙女
usagi
line
裸婦
うつぶせのジャスミン
line
sakasu
line
打ち上げ花火をあげられる四季の風景時計
line
PC広告Amazon
line
テーブルと椅子
椅子3   
line
sub_line
プロフィール

奄美剣星 (狼皮のスイーツマン)

Author:奄美剣星 (狼皮のスイーツマン)
1930年前後の歴史推理小説 シナモンと素敵な旅をどうぞ

line
ranking 1
 
line
ranking 2
人気ブログランキングへ
line
置手紙
おきてがみ     
line
Twitter ぼたん
Sweetsman7をフォローしましょう
line
レッドバロン
line
検索フォーム
line
QRコード
QRコード
line
所収作品について
文献・画像等引用の場合は引用元を記載。自作小説倶楽部作品著作権は各著者に帰属。それ以外の文藝作品・絵画写真画像に関する諸権利は当該ブログ管理人に帰属。無断複写転載を禁じます。
line
カジュアルのシナモン
シナモンアップ 
line
リンク
line
マラッカ要塞
marakka
line
珈琲館の割れ甕
城南
line
地図
line
草原の乙女
sougenn
line
バー
eruhurio  
line
海へ行こう
umiheyuku2
line
祖母
  umiheyuku 1
line
洗い髪
araigami
line
癒しの音楽
line
sub_line
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。