伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第28回/ トリスタンの殺人 『伯爵令嬢シナモン1924年』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

第28回/ トリスタンの殺人 『伯爵令嬢シナモン1924年』

2012年4月校正

伯爵令嬢シナモン1924年
「トリスタンの殺人」
  

カーテシーをするシナモン 

第3章 ウバティー(3)
 
.
 ジョージ・セシルは、レオノイスの大地主であったが、ロンドンに本社を構える証券会社の株主で役員でもあった。近年は、オーストリアのウイーンにある支店長として経営にも携わっており、当然、家を不在しがちとなった。奥方であるエリーは寂しい思いをしていた。そんなとき、同じ証券会社の役員であるモーガンが、エリーに言い寄ってきてきたのだ。二人は禁じられた仲になった。ジョージは滞在先のウイーンで、人づてに妻の不貞を知り急ぎ帰国する。 
 だがジョージの帰国方法が奇怪であった。列車を使ってフランスに行き、ドーバー海峡を渡ればいいものを、わざわざドナウ川を下って黒海に下り、そこから小さな貨物船で、リザード港に入ったのだ。これではまるで密航だ。さらにジョージの不可解な行動は続く。 
 ジョージは帰国した翌日、「釣りに行く」といって、一人でリザード川の船着き場から、モーターボートでトリスタン島へむかい、そこで何者かに後から撲殺された──撲殺された瞬間は、伯爵家庭師の孫ジョン少年が目撃している……。 
 シナモンは声のトーンを落として、容疑者の一人であるモーガンにいった。 
「何ゆえにジョージ小父様は、モーターボートを島に上陸させる必要があったのでしょうか? ──それは本来、小父様が、書斎の本棚に収めていたファイルを、どなたかに渡すためだったにほかなりません……小父様がファイルを渡そうとしたお相手はモーガンさん、貴方ですね?」 
「さすがだね、シナモン。ばれてしまっちゃ仕方ないな」 
 モーガンは不遜な態度で笑った。 
 チャールズとエディックが、(それみたことか!)という顔をした。シナモンは悲しげに目を伏せて二人にいった。 
「ではなぜ、灯台守の御爺さんが殺されたのでしょうか?」 
「そんなこと知るか!」 
 チャールズとエディックが口を尖らせた。 
「チャールズ小父様は、投機に失敗して莫大な借金がおありですね?」 
「つっ、つまらん噂だ」 
 チャールズは明らかに動揺している。シナモンは続けた。 
 灯台守の老人には病気で入院中の御孫さんがおり、かさむ治療費のために頭を悩ませていた。そしてチャールズ小父様が借金で悩んでいることを灯台守が、どこからか訊きつけ、こう焚きつけた。
.
──あんたの従兄ジョージ・セシルを殺せばよいではないかね。ジョージには子供がいない。あとは未亡人のエリーを始末すれば莫大な遺産が転がり込む。わしが住んでいる灯台からは何でもみえる。ジョージがいきつけにしている釣りのポイントとかもね。何時になったらどこにいるとか細かいことまで知っているのさ。手を貸してやるよ。 
 灯台守にそそのかされたチャールズは、ジョージがトリスタン島に上陸するのを先回りして待ち伏せし、島の断崖に立っていたその人の後から棍棒で撲殺した。 
 シナモンの話しを訊いていたチャールズは嘲笑した。 
「それじゃ、ジョージが私が島にいることをあらかじめ知っていたことになる。それに、訊いたよ──君のところの使用人の子供が、犯行の瞬間を望遠鏡でみてしまったんだろ? 
 すぐさま駐在の巡査とトリスタン島に渡ったけれども、犯人もいなければ死体もなかったそうだね……。しかも、かもめ岬にいた君たちはトリスタン島から出ていく舟の存在をみつけることもなかった。そのことはどう説明するんだね?」 
 シナモンが横にいたレザー警部に目配せをすると、警部は少女に粘板岩の小石を渡した。 
「これは粘板岩といって海底の泥が圧縮されてできる固い堆積岩です。リザード付近にある小島や岩礁は粘板岩で形成されているのです。私がこれが重要な鍵となることに気づいたのはジョージ小父様の葬儀の直後でした。モーターボートの縁にはついたばかりの新しい傷とそこに食い込んだ粘板岩の細片、船底にはこの小石があった──つまり、モーターボートは粘板岩でできた低い天井をすり抜けていった……ことを意味します」
 シナモンが左手に小石をかかげ、その下を舟に見立てた右手で動かした。 
.
P4240159.jpg

【登場人物】

レディー・シナモン/後に「コンウォールの才媛」の異名をとる英国伯爵令嬢。13 歳。

サトウ卿/英国考古学者・元外交官・勲爵士。サー・アーネスト・サトウ。 主要考古学論文『上野地方の古墳群』。

オットー・スコルツェニー/頬に傷のある少年。後にナチスSS大佐となり、「ヨーロッパ一危険な男」と呼ばれる。

T.E.ロレンス/トーマス・エドワード・ロレンス。陸軍中佐。第1次世界大戦の英雄「アラビアのロレンス」。オクスフォード大学卒の考古学者でもある。戦術書として著書『知恵の七柱』が有名。このほか、高校・大学時の中世城郭研究では、当時の学界に一大センセーションを起こした。
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1930年前後の歴史推理小説 シナモンと素敵な旅をどうぞ

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