伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 北ノ王国妖精伝説「徳姫」 3/3
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

北ノ王国妖精伝説「徳姫」 3/3

(国宝)白水阿弥陀堂〈願成寺阿弥陀堂〉

阿弥陀堂  

 いわき中央部を流れる河川に夏井川がありますが、夏井川はいくつかの支流を加えて東流し、最終的には太平洋に注がれます。物見が丘の館のお膝元である平には支流の新川が流れていたのですが橋がありません。徳姫は、難儀する領民たちのために、当時としてはハイテク技術でしかも資金のいる大きな橋を建ててやりました。これが、今に伝わる「尼子橋」で、長さ百五十間、幅二間というものでした。尼子とは徳姫をさします。尼子橋を祝福し讃辞を送った人には、江戸時代の松尾芭蕉もいて、
.
  ──みちのくの 尼子の橋や 稲の上
.
  という句を残しています。この一句は、橋の完成を祝福したのは人間ばかりではなく商業の神である稲荷大明神までもが眷属を遣わして祝福したのだという伝承を俳句にしたものです。眷属は、老翁老姥と子女十二名が、衣冠装束に烏帽子姿で現れ、橋の開通式典の先頭を切って、笛や太鼓で舞い踊り、
.
  ──千代は泊まるともこの橋の、御代ながながと末長く、尼子の橋
.
  と万歳のはやしを唱い、橋を渡りきったところで、ふっ、と消えたのだとか。

 この人は、とても長生きします。
.
 一一六〇年(永暦元年)九十七歳のとき夢枕に御仏があらわれ、「三方を山に囲まれ、南に川が東流する祝福の地」に徳姫を案内します。喜んだ徳姫は、早速この地に、毛越寺の浄土庭園と金色堂にならった阿弥陀堂ほかの大伽藍からなる白水寺を築かせ則道公の菩提を弔うとともに、風水的に根拠地物見が丘の守護する南池としたといいます。白水寺は始め天台宗でしたが、現在は真言宗となって願成寺と名を改めます。これが白水阿弥陀堂(しらみずあみだどう)です。岩城氏の根拠地である平は、平泉の平という字にあやかったもので、白水という字は平泉の泉という字を二つに割ったものだ──という説があります。
.
 白水阿弥陀堂建立の前年、京では、徳姫の兄である源義家の末裔である源氏一門が、一一五九年(平治元年)平治の乱で、いったんは平清盛に滅ぼされています。嫡子源頼朝は伊豆に流されていましたが、徳姫は不遇な頼朝のために差し入れを贈ったりして世話を焼いたそうです。贈り物のなかには兄義家からもらった源氏棟梁家の名宝「波立」があり、不遇の頼朝を大いに励ましました。


 一一八〇年(治承四年)に、平氏六波羅政権に対する反乱が各地で連鎖的に勃発し治承・寿永の乱となると、板東平氏を見方につけた源頼朝が伊豆で挙兵をします。六年後の一一一八五年(元暦二年)には、頼朝はついに平氏を打倒します。
 その最中である一一八三年(治承元年)に、自らは草庵で質素に暮らし、ひたすら人を愛するためにだけに生きた「北ノ王国貴婦人」は、源氏天下の足音をききながら息をひきとり、亡骸は夫則道と同じ菩提寺である章門寺に納められます。なんと百二十二歳の大往生でした。
.
 一一八九年、源頼朝の弟義経を平泉がかくまっていたということを口実に、頼朝は奥州に遠征し、平泉政権奥州藤原氏を根絶やしとしました。奥州藤原氏一門である岩城氏は頼朝に寝返って存続を認められましたが領地を大幅に減らされてしまいます。
 徳姫第二の故郷平泉は陥落しましたが、その結果、岩城国は中世における陸奥国最大の経済的文化的拠点として栄えたともいわれます。皮肉な話しではありますが徳姫の努力が実ったことになり、私個人としては救われた気がします。岩城一族は、栄枯盛衰を繰り返しながらも存続し、近世は羽後(秋田県)に遷って亀田藩となり維新を迎えました。
 亀田藩藩庁であった亀田城は、秋田県由利郡岩城町に所在し、その岩城町は二〇〇五年の町村合併で由利本荘市に編入されます。合併前、岩城町は、岩城家つながりで福島県いわき市と姉妹都市になっていました。
.
 一九九〇年前後、白水阿弥陀堂の催しで岩城家令嬢が白水を訪れ、今は亡き私の父が近隣をご案内しました。なぜ父は上京していた私を呼んでくれなかったのでしょうね? いまだに不満です。
.
 最後に、白水阿弥陀堂を訪れた歌人土井晩翠の短歌をどうぞ。
.
 ──南無阿弥陀、仏と唱ふる一声に すくいの御手のふるるかしこさ
.
 パソコン画面の末行まで、読んだ佐藤氏は、ふう、と一息いれました。
.
「神仏に愛され、領民に慕われ、詩人に讃えられた北ノ王国貴婦人『徳姫』か……」
「すっげーっ、徳姫、すっげーっ!」 連呼した中居氏が続けます。「ところで先輩、モデルの徳姫が百二十二歳まで生きたというとことは、姫様も? しわくちゃのババアになっちゃうんすかね?」
 そこで中居氏が、はっ、とわれに返ったのでありました。
.
 ぎゃ
.
 一同礼。
.
(引用参考文献/辻金録 『創立八百年記念国寶白水阿弥陀堂』 市川商店 1956年ほか)より

.
 ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※ 
.

コメント 

アバター
2010/01/06 21:17
咲様

愛の対象というのが、異性男性に向けられず、ヒューマンな方向にむけられる。しかもヒロインは女性、となると、マザーテレサのようにも思えますよね。

中居氏、口は災いの元ですよね。佐藤氏に任せると危険だから、そろそろ仲裁にいこうと思います。では。  
アバター
2010/01/06 21:12
藍姫様

奥州藤原政権というミステリアスな幻想王国の存在は一種の異国といっていいでしょう。
カタカナに置き換えたらそのままファンタジーになりそうですよね。  
アバター
2010/01/06 21:07
らてぃあ 様

なかなかリアルなものの見方です。
少なくとも前半生よりは穏やかな老後であることは間違いありません。  
アバター
2010/01/06 21:06
BENクー様

熊本にもそういう方がいらしたとは。地方でしか知られていないヒロインには魅力的な人物がけっこういるものですね。発掘していくといろいろな物語がかけるかもしれませんよ。  
アバター
2010/01/05 23:24
歴史の大波に翻弄された姫が、世のため人のため細やかに心を尽くす生き方はとても美しいです。
岩城が栄えたのも、徳姫が守ってくださったからだと当時の人は思ったかもしれませんね。
中居さん、見た目ばかりではなく心も美しい人は老い方もやはり美しいものだと聞いております。どうぞご心配なく。  
アバター
2010/01/05 22:10
それほど女性が活躍する機会のなかった北の地に住んでいると、異国の話を聞いているようです。
北海道の歴史と言えば、屯田兵とアイヌですから、割と近代ですしねぇ~ ^^;
そうそう、義経さんが渡ってきたと言う伝承はありますよ ^^

ああ、折角のいい話が、中居さんのツッコミで……^^;
佐藤さん、思いきり どついてさしあげてくださいね!  
アバター
2010/01/05 20:24
122歳も源氏が天下とるちょっと前に亡くなったってのも神格化されたのでしょう。実際どのような老後だったかはともかく領民には慕われていたのでしょうね。(´ ▽`).。o♪♪  
アバター
2010/01/05 15:35
徳姫様、すごいですねぇ~~。
122歳まで生き抜いたとは・・・。
でも、源氏が天下をとるまであとちょっとだったのに・・・。
アバター
2010/01/05 15:09
ふと思ったのですが、歴史の表舞台に出てくる女性は大勢いますが、後世に徳ある貴婦人として数えられる女性はさすがに少ないです。しかし、我が母の田舎(熊本県)でもこうした徳ある賢夫人の逸話があり(高貴な出自ではないですが)、心を洗われる想いを抱かせます。
スイーツマンさんがシナモンのモデルとして取り上げられた気持ちもよく分かりました!^-^  
アバター
【徳姫関係諸氏系図】

   源頼義-源義家………源頼朝 〈源氏宗家〉
         徳姫      源義経
           ↓
   藤原清衡(養女)         〈奥州藤原氏〉  
           ∥
平国香………平則道(岩城氏始祖) 〈岩城氏〉
平将門の伯父)
.
 ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※ 
.

 

せ、先輩、ルパンだあ~っ!

 

中居、クリックだけはするな。ブログを盗まれるぞ。

↓ 

.

.



.
 ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※
.
ポチボタン

 

   人気ブログランキングへ にほんブログ村 小説ブログへにほんブログ村

小説・詩ランキング

人気ランキング娯楽部 ※

  http://www.blogmura.com/help/?type=h&no=12http://ping.blogmura.com/xmlrpc/b3byx262eg9q にほんブログ村 
おきてがみ
次の行まで必要
------------------------------  


スポンサーサイト

theme : 自作小説
genre : 小説・文学

line

comment

Secret

こんばんわ

こんばんわ。
こちら今日も雪が降りました。寒いです。

徳姫122才の長寿だったのですか。
すごいですね。
最後まで人に愛を施し慕われたのですね。
美しい橋のようですね。
阿弥陀堂に似合っています。
郷土の誇る姫君ですね。

Re: こんばんわ

 雪ですか。南が雪だという話が多く、北関東では積雪をみたことがありません。
 KOZOU様には、昨今、連続して大作をかかれている合間の御来訪に感謝いたします。
  コメントはお疲れでないときでいいですよ。くれぐれもお大事に。

line
line

line
Google ペイジランク
ページランク-ナビ
line
奄美剣星
line
文鳥貴族
文鳥貴族
line
最新記事
line
「怪盗めろん」

 

line
「文鳥王トリスタン」
 
line
ブクログ
line
小説家になろう
line
amazon書籍
line
アルパカ版の恋太郎です
line
映画『副王家の人々』より
副王家の一族 
line
イアリング
 ekubo
line
チャイナドレス
chainadoress
line
ポーズ
sofa
line
魯迅記念博物館
inu
line
陽だまりの乙女
usagi
line
裸婦
うつぶせのジャスミン
line
sakasu
line
打ち上げ花火をあげられる四季の風景時計
line
PC広告Amazon
line
テーブルと椅子
椅子3   
line
sub_line
プロフィール

奄美剣星 (狼皮のスイーツマン)

Author:奄美剣星 (狼皮のスイーツマン)
1930年前後の歴史推理小説 シナモンと素敵な旅をどうぞ

line
ranking 1
 
line
ranking 2
人気ブログランキングへ
line
置手紙
おきてがみ     
line
Twitter ぼたん
Sweetsman7をフォローしましょう
line
レッドバロン
line
検索フォーム
line
QRコード
QRコード
line
所収作品について
文献・画像等引用の場合は引用元を記載。自作小説倶楽部作品著作権は各著者に帰属。それ以外の文藝作品・絵画写真画像に関する諸権利は当該ブログ管理人に帰属。無断複写転載を禁じます。
line
カジュアルのシナモン
シナモンアップ 
line
リンク
line
マラッカ要塞
marakka
line
珈琲館の割れ甕
城南
line
地図
line
草原の乙女
sougenn
line
バー
eruhurio  
line
海へ行こう
umiheyuku2
line
祖母
  umiheyuku 1
line
洗い髪
araigami
line
癒しの音楽
line
sub_line