伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 麗しのレポート/恋太郎白書158(掌編)
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

麗しのレポート/恋太郎白書158(掌編)


昔、恋をしてはふられてばかりいる若者がおり、人は指をさして恋太郎と呼んだ。花や紅葉が、はらはら、と漂う、そんな若者だった。


掌編恋愛小説群
恋太郎白書
第158回 

同好会の部室は校舎から体育館に向かう通路の途中にあった。西に窓、東に廊下となったモルタルの部屋で夏暑く冬寒い部屋である。地縛霊が居着いていそうな、夏でも薄暗いところだ。六畳そこらの狭い部屋の真ん中を大机が占拠している。

季節は秋――

愛矢ともども、麗しの昴先輩に騙された恋太郎であるが、二年生も後半となるころには、遺跡発掘調査の手順を一通り理解するようになり、「考古同好会」なるものを立ち上げたのである。

教育委員会の許可を得て行なった遺跡の調査は巾二メートル四方という狭い範囲の縄文時代集落跡だ。本来は直径百メートル規模の範囲が遺跡地なわけだが、費用やら人員、地主さんの協力とかの具合で、全体の一パーセントにも満たない四角い枠が調査対象エリアとなったわけだ。

「土坑一基。土器のかけら五点。これでどんな報告書にするんですか?」

土坑というのは古代人が掘った穴のことをいう。恋太郎たちが発掘したのは、何のへんてつもない穴ぼこだった。痩せっぽっちの高校生は、ぶーたれながらも、B5用紙四枚ほどの内容を書いて部室に持ち込んだ。

「十六枚よ。扉・序文・例言・目次・本文・まとめ・図面・写真・奥付。そういう体裁で書くの。実際の内容が薄くても紙面は足りなくなるかもね」

髪をポニーテールにしたセーラー服姿の昴先輩がつっかえす。

恋太郎はのっぽの愛矢と部室に残って、図面と写真の版組をつくり、それを睨みながら本文をつくって昴先輩にだしてみた。どうにか八ページを埋めてはいる。

「内容的に悪くないと思う。でも何というか、文章が硬くて、これではただのメモ書きの羅列だわ。特に本文の冒頭は詩的じゃないといけないのよ」

(そういうものか?)

恋太郎と愛矢は、文章が滑らかになるように工夫した。以下は恋太郎の駄文。参考までに載せるけれども、読者の方々は読まれないほうがいいと思う。

  ✩

『海猫遺跡A地点学術調査報告書』 椿が丘高校考古学同好会

遠く北極海から下りおりゆく親潮と、赤道から上ってゆく黒潮は、陸奥の終わるわが町の沖合で交差する。そこを眺望するのが、春に緑萌え、秋に紅葉にゆらめく麗しい広葉樹林で覆われた阿武隈山地の海猫山塊、標高三十メートルである。とうとうと白濁した渓流は、東にほとばしり、やがて太平洋に注がれることになるのだ。

海猫川の流域には悠久のときを越え、低湿地から左岸を仰ぐ山塊およびその周囲に連綿と人の営む跡を残してきた。みよ、左記に示す国土地理院二万五千分の一地図の独標を。旧石器時代から中世に至る二百にのぼりひしめく遺跡群が存在するではないか。独標に振ったアラビア数字を対照一覧表に置き換え遺跡名を掲載するが、あまりに膨大で枚挙にいとまがなく、本文において詳細を省かざるを得ぬことに心病む思いがしてならない。

海猫遺跡は、呼称を具現したかのような、海猫が舞い飛ぶ山塊の一画に占地する。遺跡縁辺にあたるA地点二メートル枠の地表を三十センチ掘り下げた褐色土からなる地山で発見されたのは、実測図に示す直径百センチの平面円形、深さ五十センチの断面すり鉢形土坑一基であった。埋没土は、黒色土から暗褐色土にいたる三つに分層され、全体として下方にたわんだレンズ状の堆積をなしていることが観察された。縄文時代所産の土器五点は埋没土内から検出されたものである。

土器に関しては研究者の間で若干の差異をもって論争に絶え間なく、むろん浅学たるわれら末端の考古学徒が踏み込む足場の余地などあろうはずもない。ゆえに投影法による実測図と写真を添付することにとどめた。

猛暑の中を同学とともに汗だくとなってスコップを振るい、昼時間に磯の海水をもってなした浅利貝スープの美味を忘れることはできない。われらの報告書をもって後学の励みとなることを祈念しつつ筆を置くとしよう。(おしまい)
スポンサーサイト

theme : 自作小説(ファンタジー)
genre : 小説・文学

line

comment

Secret

line
line

line
Google ペイジランク
ページランク-ナビ
line
奄美剣星
line
文鳥貴族
文鳥貴族
line
最新記事
line
「怪盗めろん」

 

line
「文鳥王トリスタン」
 
line
ブクログ
line
小説家になろう
line
amazon書籍
line
アルパカ版の恋太郎です
line
映画『副王家の人々』より
副王家の一族 
line
イアリング
 ekubo
line
チャイナドレス
chainadoress
line
ポーズ
sofa
line
魯迅記念博物館
inu
line
陽だまりの乙女
usagi
line
裸婦
うつぶせのジャスミン
line
sakasu
line
打ち上げ花火をあげられる四季の風景時計
line
PC広告Amazon
line
テーブルと椅子
椅子3   
line
sub_line
プロフィール

奄美剣星 (狼皮のスイーツマン)

Author:奄美剣星 (狼皮のスイーツマン)
1930年前後の歴史推理小説 シナモンと素敵な旅をどうぞ

line
ranking 1
 
line
ranking 2
人気ブログランキングへ
line
置手紙
おきてがみ     
line
Twitter ぼたん
Sweetsman7をフォローしましょう
line
レッドバロン
line
検索フォーム
line
QRコード
QRコード
line
所収作品について
文献・画像等引用の場合は引用元を記載。自作小説倶楽部作品著作権は各著者に帰属。それ以外の文藝作品・絵画写真画像に関する諸権利は当該ブログ管理人に帰属。無断複写転載を禁じます。
line
カジュアルのシナモン
シナモンアップ 
line
リンク
line
マラッカ要塞
marakka
line
珈琲館の割れ甕
城南
line
地図
line
草原の乙女
sougenn
line
バー
eruhurio  
line
海へ行こう
umiheyuku2
line
祖母
  umiheyuku 1
line
洗い髪
araigami
line
癒しの音楽
line
sub_line