伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第24回/ トリスタンの殺人 『伯爵令嬢シナモン1924年』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

第24回/ トリスタンの殺人 『伯爵令嬢シナモン1924年』

2012年4月校正
伯爵令嬢シナモン1924年
「トリスタンの殺人」 

第2章 男装の伶人(12)
 

 シナモン警護のため舞台裏に詰めているレザー警部たちの前にウェールズからきた男が現れた。 
「はじめまして、レザー警部」 
「どこかでみた顔だ?」 
 制服警官の一人が警部に耳打ちした。 
(えっ、あの『アラビアのロレンス』か!) 
 握手を済ますと青灰色の瞳をした男はぶしつけに警部にきいた。 
「刺客とおぼしき人物は割り出しましたか?」 
「不審な人物はおりませんな。入り口に見張りをおいてチエックさせてましたのでね」  
 ロレンスは入り口から、そっと、シナモンたち役者陣のそろう舞台を見回し、そして客席をながめた。 
「刺客は大柄な男だとは限らないし、変装しているときもある。たとえば舞台前列中央にいるあの老婆の格好はやや違和感がある」 
(まっ、まさか、あんな前に。部下たちを配備していない。あそこから拳銃で狙撃されたら間に合わない) 
 警部は慌てて、数名の部下を呼んで劇場全体に配備させていた警官たちに伝えに走らせた。劇場観客席はスポットライトに照らされる前列付近を除いては全体に暗い。ロレンスは今いる位置から劇場奥の高い席にいるスコルツェニーをみることはかなわないが、存在を感じることができた。
  ✩ 
トリスタンはまた問うた。 
「『黒き竜』よ、おまえの狙いは、哀れなメロート公のように、私の身体を欲しているのだな?」 
(そうだ。汝の無様ないまの状態としては最高の条件だとは思わないかね、トリスタン? あらゆる生物は、おのが子孫を残すため、ライバルとなる種族を蹴落とし滅亡させ、進化を遂げてきた。人類とて例外ではない。人類が発明した文明とは炎だ。道具としての炎を得るために森林樹木を伐採し都市を築いてきた。なにゆえに? 『欲望』のためにだ。『欲望』とは善だ。進化の頂点を目指す『欲望』に逆らうことこそが悪なのだ。そう、悪とは愚か者のことをいうものだとは思わないかね、トリスタン?)    
 トリスタンは激しく左右に首を振った。 
「それは禽獣の理屈だ。人には、人類には、『理性』というものがある。私は過ちを犯し甘んじて罰を受けているのは、私が人であるからだ。人が歩ゆめば罪をつくる、人は自らの罪を償いながら進化するのだ。少なくとも私はそうありたい」
(残念だよトリスタン、汝とは仲良くなれると信じていたのだがね……) 
 メロート公の身体を乗っ取った『黒き竜』が、双眼から涙を流し手にした剣を、深々とトリスタンの腹に突き刺した。トリスタンは相手の剣をつかんでたぐり寄せ、枕の後ろに隠したエクスカリバーの柄を握った。 
(私は人だ。太祖アーサー大王よ、私は〈理性〉を正義と信ずる。〈欲望〉か〈理性〉か答えられよ、大王……) 
 トリスタンが手にした長剣の鞘がするりと床に落ちた。
.
  エクスカリバアアアアアアアアアアアッ。
.
 剣身に「赤き竜」の頭部が映り、それが赤い稲妻の閃光とともに、メロート公の背中から深々と突き刺さっていった。メロート公は、「黒き竜」に姿を変え、何度も咆哮をあげながら石畳をのたうち回りついに果てた。 
 ちょうどそのとき、マルク王の軍勢が、あっけない主君の死で狼狽しているメロート公の軍勢を蹴散らしてトリスタンの寝室に入ってきた。 
「トリスタン、愛するわが甥よ。どこだ!」 
そういってトリスタンの亡骸をみつけたマルク王が、亡骸を抱いて天を仰いだ。しばらくしてイゾルテが部屋に駆け込んできた。「トリスタン。マルク王がすべてをお許しなられたのに──王は私と離縁してあなたと結婚することをお許しになられたのよ……」 
 イゾルテが狂ったように叫ぶと、懐剣で、自らの喉を刺して床に屈した。 
「なんということを……」 
 イゾルテに駆け寄ったマルク王は愛する者のことごとくを失って一人となり、部屋の中央で呆然と立ちすくんだ。 
  ✩ 
 伯爵夫妻と並んで貴賓席に座っていたサトウ卿が、(ふう、無事に舞台が終わった) と安堵して拍手を送った。 
 続いて他の客たちが喝采をしだした。泣いている客もいる。このとき喝采を送る客で客席最前列に座っていた老婆が、ハンドバックに隠し持っていた拳銃を取り出し舞台にいるシナモンに向けて立ち上がった。ロレンスが指摘した老婆に変装した刺客だ。 
.
 P4240159.jpg 



【登場人物】

レディー・シナモン/後に「コンウォールの才媛」の異名をとる英国伯爵令嬢。13 歳。

サトウ卿/英国考古学者・元外交官・勲爵士。サー・アーネスト・サトウ。 主要考古学論文『上野地方の古墳群』。

オットー・スコルツェニー/頬に傷のある少年。後にナチスSS大佐となり、「ヨーロッパ一危険な男」と呼ばれる。

T.E.ロレンス/トーマス・エドワード・ロレンス。陸軍中佐。第1次世界大戦の英雄「アラビアのロレンス」。オクスフォード大学卒の考古学者でもある。戦術書として著書『知恵の七柱』が有名。このほか、高校・大学時の中世城郭研究では、当時の学界に一大センセーションを起こした。


リザード城

レオノイス城から手前イゾルテ島・奥トリスタン島を望む。港が城下町となり、その奥が、かもめ岬である。

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非常に、面白い物語りでした。

次のステージも楽しみですね。

ランクポチ。

jizou 様

長いお話である「飛行船の殺人」に続きまして、「トリスタンの殺人」を読んで戴き誠にありがとうございます。シナモンの物語はデリケートで、他の作品と異なり、下調べがやたらにかかります。時間はかかりますけれども、ご期待にそぐわぬよう、今後とも精進いたしますので、宜しくご教示くださいませ。


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1930年前後の歴史推理小説 シナモンと素敵な旅をどうぞ

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