伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第23回/ トリスタンの殺人 『伯爵令嬢シナモン1924年』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

第23回/ トリスタンの殺人 『伯爵令嬢シナモン1924年』

2012年4月校正
伯爵令嬢シナモン1924年
「トリスタンの殺人」 

第2章 男装の伶人(11)
 
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 トリスタンは国外追放となり、従者ゴルヴナル一人を伴い、現在のフランス北岸であるブルターニュ半島にある所領に謹慎することになったのだった。 
P4240159.jpg 
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 第六幕が開幕した。舞台はブルターニュ半島にある海を臨んだトリスタンの居城である。トリスタンが、一門衆筆頭のメロート公と決闘して敗れ、メロートが剣に塗った毒のため寝室で臥せっているところから始まる。その寝室に従者ゴルヴナルが駆け込んできた。 
「とっ、トリスタン様、敵襲です」 
「敵襲? 海賊か?」  
「軍旗の紋章から、メロート公の手勢兵士一千のようです」 
「メロート公? いまさら何ゆえに攻めてくるというのだ?」 
 トリスタン領内から兵士をかき集めると三百ほどにはなるのだが、寝込みを襲われた形で、城に詰めている兵士は五十名を下回っている。城を取り囲んだ敵兵は、舟に積んでいた攻城用の車両を組み立て、城門をぶち破って内部へ突入したのだった。 
「ここだっ。扉を斧で砕いてしまえ! 」 
 扉の前に家具を積んでバリケードにしたのだが敵兵突入は時間の問題だ。汗埃と血糊で甲冑の汚れたトリスタンの近習十名が、主君と命運をともにすべく最後の戦闘に備えた。病いで立ち上がることのできない英雄は、上半身を起こし、矢をセットしたいくつかの石弓を手元に置き、枕元には叔父から預けられていた神剣エクスカリバーを置いている。 
「勇者トリスタンを仕留めたる者は、末代までの語りぐさじゃ!」 
 ついに扉は破られ、バリケードを突破した、敵兵がなだれ込んできた。トリスタンの近習たちは勇敢に応戦するのだが衆寡敵せず、一人また一人と敵兵に討たれていく。病床の英雄もあらかじめセットしていた石弓の矢を使い果たしてしまった。最後に残ったのは従者ゴルヴナルだけで、主君の寝台の横で、詰め寄る狼のような敵兵の群れを長槍で威嚇するのがやっとであった。その従者ゴルヴナルも敵兵が放った弓矢で石畳に突っ伏した。はやる兵士たちを制し、群れを割って、宿敵メロート公が姿を現し、大胆にも半身を起こしているトリスタンの寝台の端にどっかと座った。 
 トリスタンは、メロート公を正視して問いただした。 
「何が目的だ? 私の領地を占領しても叔父上が領有など許すまい」 
「なるほど卿は、躬との決闘に敗れ国外追放処分となった。されどコンウォール王家継承の証し神剣エクスカリバーを手にしている。マルク王とイゾルテ王妃の間には相変わらず子がいない。不遜ながらマルク王は老い先短い……判るだろう、トリスタン?」 
「理屈は通っているな。しかしそれだけではあるまい?」 
トリスタンがまた問うとメロート公が嘲笑した。公は、言葉ではない心に直接トリスタンに語りかけてきたのだった。 
(賢いなトリスタン、汝に最後のチャンスをくれてやろう) 
(『黒き竜』か!) 
(そうだ。吾はもともとを実体をもたず、人の心の『闇』を渡り歩く。アイルランドの洞窟にいたのは、彼の国の者どもが〈闇〉をイメージした幻、私自身は不滅の存在だ) 
(ではメロートは?) 
(ああ、こやつか? 吾は、愚かなメロートの『闇』に同調しこやつの身体を乗っ取った。ふん……こやつは自らがコンウォール王になりたかったのよ。次々と武勲をたてていきマルク王の寵愛めでたい汝が妬ましかっただけの浅ましき男) 
 メロート公の身体を乗っ取った『黒き竜』が、あげた自らの片腕を一瞥した。 




【登場人物】

レディー・シナモン/後に「コンウォールの才媛」の異名をとる英国伯爵令嬢。13 歳。

サトウ卿/英国考古学者・元外交官・勲爵士。サー・アーネスト・サトウ。 主要考古学論文『上野地方の古墳群』。

オットー・スコルツェニー/頬に傷のある少年。後にナチスSS大佐となり、「ヨーロッパ一危険な男」と呼ばれる。

T.E.ロレンス/トーマス・エドワード・ロレンス。陸軍中佐。第1次世界大戦の英雄「アラビアのロレンス」。オクスフォード大学卒の考古学者でもある。戦術書として著書『知恵の七柱』が有名。このほか、高校・大学時の中世城郭研究では、当時の学界に一大センセーションを起こした。


リザード城

レオノイス城から手前イゾルテ島・奥トリスタン島を望む。港が城下町となり、その奥が、かもめ岬である。

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genre : 小説・文学

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comment

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どうなるのか、ハラハラしますね。

黒き竜は一種の悪魔ですね。

jizou様

どきどき、ありがとうございます
もともとはローマ軍の旗だったとのこと
対する赤き竜は地元ケルトの旗で、アーサー王の軍旗であり、紋章は現在の英国王室も継承しています
黒き竜は、地元ケルトにとっては侵略者であり、また、キリスト教の布教によって、悪魔化していったとのことです

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