伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第22回/ トリスタンの殺人 『伯爵令嬢シナモン1924年』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

第22回/ トリスタンの殺人 『伯爵令嬢シナモン1924年』

2012年4月校正
伯爵令嬢シナモン1924年
「トリスタンの殺人」 

第2章 男装の伶人(10)
 
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 アイルランドからコンウォールにむかう船の上には、トリスタンとイゾルテがいた。 
(トリスタンは確かに『黒き竜』を倒したアイルランドの救世主ではあるけれども、婚約者モルオトを殺した仇敵。しかも『黒き竜』を倒し自分の妻に迎えるのではなく、叔父に捧げるというのか? 私は貢ぎ物か?) 
 疑問がイゾルテに生じた。そんなふうに考えることはアイルランドのためにならない──ということは自身も承知している。けれども感情が許さないのだ。その人はついに感余り、船の舳先で竪琴を奏でていたトリスタンの後ろから声をかけた。 
「眠れないの。お酒に付き合ってくださる?」 
「見事な星です。お付き合いいたしましょう」 
イゾルテがそういって角杯を手渡そうとするので、トリスタンは弦を弾じるのをやめて角杯を受け取った。二人は乾杯し飲みほしたところで、イゾルテは勝ち誇ったようにトリスタンにいった。 
「ささやかなる私の復讐よ、トリスタン。私の婚約者モルオトを殺し、同じ手で『黒き竜』を倒してアイルランドを救った英雄。あなた一人を黄泉には旅立たせない。私もお供するわ」 
「毒を盛ったのか?」  
 イゾルテがうなづいた。しかし二人に感情の変化が現れ、火山爆発のように吹き上げてくる感情を抑えることがかなわず抱擁しあった。二人の背後にはイゾルテ付きの女官が現れた。 
(──お許し下さいませイゾルテ様。そんなことと思い、毒薬と媚薬《びやく》をすり替えておきました。媚薬は王妃様が魔法をかけながらお作りになられたもの。もしマルク王がお好みでなくとも愛するようになれる薬。毒をあおられるくらいならいっそと……) 
 こうしてトリスタンとイゾルテは禁じられた愛に苦しむ仲となり、そのうえでイゾルテはマルク王の妃となったのである。一行がコンウォールに着くとただちに盛大な婚儀が執り行われ、国中が祝賀に沸きたった。マルク王はイゾルテに親切であった。新妻になにかと配慮をしてくれた。イゾルテはそんなマルク王に感謝し尊敬したのだが、心はトリスタンの虜となってしまったのである。 
 そんな二人の仲は公然の秘密となり、ついに、一門衆筆頭のメロート公が口火を切った。 
「聡明なる王よ、口にせぬだけで皆が、イゾルテ王妃とトリスタン卿との仲を知らぬ者はおりませぬ。王妃の不貞は国の威信に関わること。王とて見て見ぬふりをなさることは許されませぬ」 
「メロート公よ、どうしろというのだ?」 
「祭壇を設け、神の臨席のもと、私とトリスタン卿とを決闘をさせてくださいませ。もしトリスタン卿が潔白ならば神はトリスタン卿に勝利を与え、反対に私の申すことが誠ならば神は私に勝利を与えるでありましょう」 
 翌日にも練兵場のある馬出し郭に祭壇が設けられ、城の貴賓・兵士たちが見守るなか、決闘が執り行われた。マルク王は祭壇に置かれた神剣エクスカリバーを手に取り、トリスタンに手渡した。 
「審判は、太祖アーサー大王の魂魄が宿りしエクスカリバーがくだすであろう」 
 白馬に乗り銀色の甲冑を身にまとったトリスタンに対し、メロート公は黒馬に乗り黒色の甲冑を身にまとっている。太鼓が打ち鳴らされ、決闘はまず飛槍をもっての突撃から始まったが、互いに巧みに飛槍を交わしあったため決着がつかない。次に二人は作法に従い、馬を降り剣での決着に臨んだ。間合いをつめて両者が詰め寄っていく。メロート公が長剣の柄に手を掛け抜いた。 
(剣が、エクスカリバーが、抜けぬ!) 
 トリスタンが引き抜けずにいたところを、メロート公に袈裟懸けに斬られ突っ伏した。おおっ、と観客席はどようめいた。貴賓席に陣取っていたイゾルテは両手で悲鳴を押さえ、マルク王は双眼に手を当ててから頭を左右に振った。そしてメロート公の言い分に義があることを認めざるを得ない。重傷を負ったトリスタンに対してマルク王はいたわりの言葉をかけた。
「トリスタンよ、愛するわが甥トリスタンよ。おまえを国外追放とせねばならぬ  ──神剣エクスカリバーをそなたに預ける。神剣エクスカリバーを鞘から抜き放てるようになったときこそ、太祖アーサー大王がおまえの罪を許したときだ」
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P4240159.jpg 
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【登場人物】

レディー・シナモン/後に「コンウォールの才媛」の異名をとる英国伯爵令嬢。13 歳。

サトウ卿/英国考古学者・元外交官・勲爵士。サー・アーネスト・サトウ。 主要考古学論文『上野地方の古墳群』。

オットー・スコルツェニー/頬に傷のある少年。後にナチスSS大佐となり、「ヨーロッパ一危険な男」と呼ばれる。

T.E.ロレンス/トーマス・エドワード・ロレンス。陸軍中佐。第1次世界大戦の英雄「アラビアのロレンス」。オクスフォード大学卒の考古学者でもある。戦術書として著書『知恵の七柱』が有名。このほか、高校・大学時の中世城郭研究では、当時の学界に一大センセーションを起こした。


リザード城

レオノイス城から手前イゾルテ島・奥トリスタン島を望む。港が城下町となり、その奥が、かもめ岬である。
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comment

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No title

なかなか、面白い物語りでした。
マルク王の器の大きさに、感心しました。
ランクポチ。

jizou様

初期の物語は、トリスタンが命がけで結婚権を手に入れたイゾルテを横取りした上に、トリスタンを手討ちにしたとんでもない暴君。ところが、だんだん、時代が経つにつれていい奴になってゆき、不倫をして、友人の妻コジマを自分の妻にすることになるワグナーが、戯曲トリスタンとイゾルテに自分たちを宛て、裏切った友人をマルク王に仕立てて正当化するにいたった次第です。汗
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