伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第21回/ トリスタンの殺人 『伯爵令嬢シナモン1924年』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

第21回/ トリスタンの殺人 『伯爵令嬢シナモン1924年』

2012年4月校正

伯爵令嬢シナモン1924年
「トリスタンの殺人」 

第2章 男装の伶人(9)
 
.
 舞台は、アイルランドの王城である。尊大に胸を張ったいかにも惰弱な印象を受ける騎士が謁見の広間にやってきて、片膝をついてこんな口上を述べた。 
  ✩ 
 国王夫妻と王女イゾルテに謁見した騎士が申し出た。 
「王よ、『黒き竜』を倒しました。お約束通りイゾルテ王女を私めにお賜りください」 
 謁見の広間にいた者たちは、騎士の言葉をきいて誰もが首をひねった。 
.
 ――あやつ、戦場で先陣を切ったことなど一度もなく、さしたる武勲もない。かような者が、あの『黒き竜』を倒せるものか?
.
「おや、皆様、私をお疑いのようですね? 論より証拠『黒き竜』はアイルランドを脅かさなくなりました。すべては私めが倒したからでございます」 
 騎士のものいいは役者がかっていた。王女は騎士によい印象がないとみえて、父君にこう進言した。 
「父上、その者のいうことが正しいか否かは『黒き竜』の棲家を訪ねれば判ること。ただちに斥候を放って、事の真偽をお確かめくださいませ」 
「判った。イゾルテの申す通りだ。真偽を確かめるまでは汝を北の塔で幽閉することにする。誠であれば汝にイゾルテを与え一門として迎え諸侯に列するといよう。しかし偽りであれば騎士身分を剥奪し国外へ追放する。よいな──」 
 騎士の顔が硬直し、罪人のように衛兵両腕をつかまれ引きずられるように北の塔へ連行されていった。翌日、皆が思ったように騎士の言葉は嘘と判り罰が与えられた。かわって重傷を負ったトリスタンと従者ゴルヴナルの二人が、「黒き竜」の住処で発見され、国賓として王城に担ぎ込まれてきた。介護をしたのはまたも心優しき王女イゾルテであった。 
 イゾルテは秘薬を練り二人を献身的に介護した。数日後、どうにか口を利くことが出来るようになったトリスタンが王女に告白した。 
「以前にも私はあなたに救われた。タントリスというのは偽名で、ほんとうの名はトリスタン──コンウォールの騎士トリスタン――です」 
「トリスタン? 私の婚約者モルオルトを殺した──」 
 イゾルテは懐剣を抜いて寝台に横たわるトリスタンを刺そうとしたのだが、トリスタンは静かに死を受け入れようとしていたため、ふっ、と力が抜けたように振り上げた懐剣を降ろした。  
「私はあなたを許さない。けれどもあなたがアイルランドの救世主であることには変わらない。約束は約束、私はあなたの妻となりましょう」 
 トリスタンはゆっくり首を横に振って、胸の内を語った。 
「私の望みは、イゾルテ王女、あなた様がコンウォールに輿入れしてくださること。あなた様がわが叔父マルク王に嫁いでくだされば、アイルランドとの百年にわたる抗争が終結するのです。私が『黒き竜』を倒しましたのもそのため──」 
 イゾルテはショックを隠しきれないではいたが、侍女のいれてくれたハーブ入りの白湯を飲んで少し落ち着きを取り戻したのだった。この話しは、アイルランドの国王の耳にも入った。
.
 ──トリスタンか……老いぼれのマルク王にはもったないない騎士だ。王女を与えてわが一門衆に加えたいところだが、〈黒き竜〉に荒らされ疲弊したわが国が、逆にコンウォールに脅かされるとも限らぬ。この申し出を受けるのは天命というものであろう。
.
 トリスタンの望みはかなえられ、早速、王女イゾルテは、コンウォールに輿入れすることが決まった。  
.
P4240159.jpg
.
 劇場観客席には、殺されたジョージ・セシルの従弟であるチャールズとエディックの姿もあり、エディックが隣の席にいるチャールズの肩を叩き後方を指さした。 
「チャールズ、見ろよ、モーガンとエリーがいるぜ」 
「エリーめ、いい気なものだな。ついこないだまで悲劇のヒロインを演じていたくせに、ジョージの喪もあけて間もないというのにモーガンの野郎と夫婦気取りしていやがる」
 チャールズがいまいましげにいい、さらに付け加えた。 
「そういえばエディック、ジョージがエリーと結婚するまえは、おまえ、エリーと付き合っていたんだよなあ」 
「おいおい、どういう意味だい? まさか五年以上も前にエリーをジョージに横取りされた怨恨で僕がジョージを殺したとでもいうのかい? さっき入り口のところにいる警察官が話していたのをきいたんだがね、ジョージ殺害当日、漁に出ていた漁師が、モーガンとおぼしき男を乗せた蒸気船を目撃しているんだ。真犯人は僕じゃない。奴だね」 
「やはりそうか──モーガンだな、犯人は……」   
 観客席に座る二人の男はほくそ笑んだ。


【登場人物】

レディー・シナモン/後に「コンウォールの才媛」の異名をとる英国伯爵令嬢。13 歳。

サトウ卿/英国考古学者・元外交官・勲爵士。サー・アーネスト・サトウ。 主要考古学論文『上野地方の古墳群』。

オットー・スコルツェニー/頬に傷のある少年。後にナチスSS大佐となり、「ヨーロッパ一危険な男」と呼ばれる。

T.E.ロレンス/トーマス・エドワード・ロレンス。陸軍中佐。第1次世界大戦の英雄「アラビアのロレンス」。オクスフォード大学卒の考古学者でもある。戦術書として著書『知恵の七柱』が有名。このほか、高校・大学時の中世城郭研究では、当時の学界に一大センセーションを起こした。


リザード城

レオノイス城から手前イゾルテ島・奥トリスタン島を望む。港が城下町となり、その奥が、かもめ岬である。

スポンサーサイト

theme : 自作小説(ファンタジー)
genre : 小説・文学

line

comment

Secret

No title

トリスタンとイゾルデの物語りを、勉強させて貰いました。
シナモンちゃんが、襲われないと、犯人は特定しにくいですね。Wランクポチ。

jizou様

ミステリーとしての仕掛けを解いて楽しむというよりは
劇との絡みを重視してしまいましてね
いまだに
かなり邪道な形で、どんなものやらと、思案しております
line
line

line
Google ペイジランク
ページランク-ナビ
line
奄美剣星
line
文鳥貴族
文鳥貴族
line
最新記事
line
「怪盗めろん」

 

line
「文鳥王トリスタン」
 
line
ブクログ
line
小説家になろう
line
amazon書籍
line
アルパカ版の恋太郎です
line
映画『副王家の人々』より
副王家の一族 
line
イアリング
 ekubo
line
チャイナドレス
chainadoress
line
ポーズ
sofa
line
魯迅記念博物館
inu
line
陽だまりの乙女
usagi
line
裸婦
うつぶせのジャスミン
line
sakasu
line
打ち上げ花火をあげられる四季の風景時計
line
PC広告Amazon
line
テーブルと椅子
椅子3   
line
sub_line
プロフィール

奄美剣星 (狼皮のスイーツマン)

Author:奄美剣星 (狼皮のスイーツマン)
1930年前後の歴史推理小説 シナモンと素敵な旅をどうぞ

line
ranking 1
 
line
ranking 2
人気ブログランキングへ
line
置手紙
おきてがみ     
line
Twitter ぼたん
Sweetsman7をフォローしましょう
line
レッドバロン
line
検索フォーム
line
QRコード
QRコード
line
所収作品について
文献・画像等引用の場合は引用元を記載。自作小説倶楽部作品著作権は各著者に帰属。それ以外の文藝作品・絵画写真画像に関する諸権利は当該ブログ管理人に帰属。無断複写転載を禁じます。
line
カジュアルのシナモン
シナモンアップ 
line
リンク
line
マラッカ要塞
marakka
line
珈琲館の割れ甕
城南
line
地図
line
草原の乙女
sougenn
line
バー
eruhurio  
line
海へ行こう
umiheyuku2
line
祖母
  umiheyuku 1
line
洗い髪
araigami
line
癒しの音楽
line
sub_line