伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第19回/ トリスタンの殺人 『伯爵令嬢シナモン1924年』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

第19回/ トリスタンの殺人 『伯爵令嬢シナモン1924年』

2012年4月校正

伯爵令嬢シナモン1924年
「トリスタンの殺人」 

第2章 男装の伶人(7)
 

 トリスタンは、「黒き竜」が吐く障気の直撃を盾でかわしながら、攻撃の合間に退路に隠し置いた長弓や石弓の毒矢、長槍を次々とつかって応戦し、最後の長槍で相手の片目を潰した。すると一層凶暴化して尻尾で、若い騎士が準備した最後の盾を弾き飛ばした。直撃をかわしていたものの障気を吸って気管を痛めたトリスタンは咳き込みながら、ふらふら走って、どうにか小舟までたどり着いた。小舟には忠実な従者ゴルヴナルが待機しており、主人の姿を見かけると駆け寄り、神剣「エクスカリバー」を投げ渡した。 
 片目を失った「黒き竜」は、強靱な後脚で跳躍し前脚についた翼を大きく広げて滑空すると、いまにもトリスタンに噛みつこうとした。 
(わが祖先アーサーよ。義に生きた聖王よ。人に、人である私に力を……)  
 どうにか両脚で踏ん張っているトリスタンが、最後の力を振り絞って鞘から剣を抜き放ったとき、神剣「エクスカリバーに」魂を宿すといわれるアーサー王本来の姿「赤き竜」の姿が剣身に浮かび上がり、咆哮するかのように大きく口を開いた。トリスタンが叫ぶ。
.
 エクスカリバァァァァァっ……。
.
 赤い稲妻が走り抜け雷鳴と地響きが起こった。

P4240159.jpg
.
 トリスタンに食らいつこうとする「黒き竜」の牙をかわし、首の下をかいくぐって、渾身の一撃を袈裟懸けに繰り出し前脚をなぎ払い、ついで、突っ伏した敵の頭に剣を突き刺してとどめをさした。 
 断末魔にもだえる「黒き竜」が動かなくなると、どうにか立っていたトリスタンが両膝を、がたん、と地面に落として倒れそうになった。いまにも倒れそうな主人を従者ゴルヴナルが叫んだ。 
「トリスタン様──」 
 忠臣が駆け寄り主人を抱きかかえたこのとき、横合いの岩陰から矢が放たれた。従者が倒れ、ために、従者に抱きかかえられた主人も突っ伏した。 
(何者……な……の……だ?) 
 やがて、矢が放たれた岩陰からか細い騎士が現れ、立ち上がって高笑いした。 
(これで、イゾルテ王女は俺のものだ──) 
 第四幕が終わった。興奮して喚声のあがる観客席では、シナモン演じるトリスタンが「」黒き竜」に襲われ、力尽きて倒れたあたりで、一緒に卒倒する人々が続出した。調理師の若い夫人もその一人だ。 
「もう、はらはらして心臓がとまりそう。身体に良くないよ」 
 庭師の老夫人は卒倒まではしないが、そう夫に訴えた。ジョン少年がつぶやいた。 
「しっ、しかし……なんて演技なんだろ──姫様、今年は一段と凄いや」 
 庭師の老人と調理師の若者もうなづいた。 
 シナモンたちは楽屋で休憩した。楽屋の通路のところで声がする。舞台裏にも警察官が配備されており、そこには捜査を指揮している警部がいて、劇場の外で捜査にあたっている部下の警官たちからの報告を受けていたのだった。 
「犯行当日は、ジョージ・セシル氏の屋敷には人がいなかったのか?」 
「はい、日曜日でジョージ・セシル氏を除く全員が教会の礼拝に出払っていたとのことで、供述は一致しています。被害者は、自宅裏にある船着き場に繋留していたモーター・ボートに乗りこんで、トリスタン島に出かけたようです」 
 警部は顎に手を当てた。
「被害者は犯人と一緒に島に渡ったことになるな……」 
「容疑者は、従弟のチャールズ氏とエディック氏、それにモーガン氏とエリー夫人の四人だったよな」 
「はい、ジョージ・セシル氏が、レディー・シナモンに財産の大半を譲る旨の遺書を書くまでは、従弟である二氏に相続権があったのですから……。つぎにモーガン氏とエリー夫人は不倫関係にあったようで、邪魔になったジョージセシル氏を殺害したという線も考えられますね」 
 警部は軽くうなずいた。 
「使用人老夫妻と一緒に礼拝にいったというエリー夫人は、少なくとも殺害の実行犯からは外れる。すると容疑者は必然的に三人に絞られたというわけだ……」 
 警部が横をみると、シナモンが立っていることに気づいた。こほん、と咳払いしてから部下に、「引き続き捜査を続けろ」と命じ捜査班の警官たちを散開させた。このとき舞台監督の青年がシナモンを呼ぶ声がした。 
「はあい、姫様、第五幕が開幕ですよおっ!」 
 十三の貴婦人は、一度警部のほうを振り向くと舞台へとむかった。


【登場人物】

レディー・シナモン/後に「コンウォールの才媛」の異名をとる英国伯爵令嬢。13 歳。

サトウ卿/英国考古学者・元外交官・勲爵士。サー・アーネスト・サトウ。 主要考古学論文『上野地方の古墳群』。

オットー・スコルツェニー/頬に傷のある少年。後にナチスSS大佐となり、「ヨーロッパ一危険な男」と呼ばれる。

T.E.ロレンス/トーマス・エドワード・ロレンス。陸軍中佐。第1次世界大戦の英雄「アラビアのロレンス」。オクスフォード大学卒の考古学者でもある。戦術書として著書『知恵の七柱』が有名。このほか、高校・大学時の中世城郭研究では、当時の学界に一大センセーションを起こした。


リザード城

レオノイス城から手前イゾルテ島・奥トリスタン島を望む。港が城下町となり、その奥が、かもめ岬である。

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目次/トリスタンの殺人 『伯爵令嬢シナモン1924』

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No title

劇と現実の事件が縦糸と横糸の様に
絡まり、面白いですね。
ランクWポチ。

jizou様

ちょっとした実験でした。しかし第一稿稿了後、数年後に購入したミステリーのマニュアル本を読んでいたところ幾つかの邪道をしらずにやっていた気付く私。トンネルネタとカットバックが反則でした。(汗)
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1930年前後の歴史推理小説 シナモンと素敵な旅をどうぞ

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