伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第17回 / トリスタンの殺人 『伯爵令嬢シナモン1924年』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

第17回 / トリスタンの殺人 『伯爵令嬢シナモン1924年』

2012年4月校正

伯爵令嬢シナモン1924年
「トリスタンの殺人」 

第2章 男装の伶人(5)
 


 朝方、コンウォールの王城城門前に騎士トリスタンとその従者ゴルヴナルの二人がたどりついた。 
「とうとう帰りましたね、トリスタン様」 
 従者が感慨深げにいうとトリスタンは深くうなづいた。門番が二人の姿をみつけ開門すると、マルク王が駆け寄ってきてトリスタンを抱きしめた。 
「愛するわが甥よ、死んだかと思っていたぞ」 
「叔父上、ご心配をおかけしました」 
 その様子を苦々しくみていた臣下たちがおり、メロートという諸侯は急先鋒であった。 
(マルク王が、王妃を亡くされて久しい。このままでは王位はトリスタンにいってしまう。トリスタンはもともと外国人だ。外国人にコンウォールの王統を継がせるわけにはいかぬ。ここは新しい王妃をお迎えして御世継ぎをもうけて戴かねば……)
 メロートは諸侯たちを誘って王に進言した。 
「偉大なるマルク王よ。そろそろ臣民はお世継ぎを待ち望んでおります。そろそろ新しき王妃をお迎え戴いてはいかがかと……」  
 このとき一羽の燕が舞い降りてマルク王の指先にとまった。優しい王なので、燕をも安心して手にとまる。黄金の髪をくわえていた。 
「ほう、髪の毛をくわえておるな。黄金の髪だ」 
 そうつぶやくと朗らかに笑った。 
「この髪の娘を王妃とする」
.
 ──煙に巻くのかマルク王よ、あなたはあくまで、王位をトリスタンに渡すというのか? なれば親族であるわれらが、正統なるコンウォールの血筋を守るまでのことだ。
.
 (危うい。このままでは国が二つに割れる。内乱が起こればアイルランドが攻めてくる。そうなればコンウォールは終わりだ)  危惧したトリスタンが、マルク王の指先にとまっている燕をふとみると、見事な黄金の髪の色艶からアイルランド王女が思い浮かんだ。 (あの娘こそ、内乱を防いでくれるに違いない。王女に嫁いでもらえば、コンウォールの臣下は一つにまとまり、アイルランドは仇敵転じて心強い盟友となろう……一石二鳥だ)  トリスタンはマルク王に進言した。 
「黄金の髪の娘に心当たりがございます。その髪はアイルランド王女イゾルテのもの。マルク王よ、私はいま一度、アイルランドに参りとうございます」 
 王はとめたが、トリスタンはきかず、従者ゴルヴナルを伴って再び船上の人となった。 
 そのころアイルランドでは黒き竜が地割れから姿を現し人々を襲って、国民を恐怖に陥れていた。アイルランドの国王は触れをだした。
.
 ──黒き竜を倒した者に王女イゾルテを与える。
.
 観客席にいた老紳士と庭師の老夫婦、調理師の若夫婦に庭師の孫の五人が、トリスタンに扮したシナモンの演技に魅了されていた。ジョンは興奮していった。 
「かっこいいよなあ、トリスタンをやらせたら、姫様が一番だ!」  
 レオノイス城の人々は皆うなづいた。そんなレオノイス城の人々の席のはるか後方の席には、いつの間に現れたのだろう細身で小柄な男がいた。居酒屋にいた男だ。 
(あれが伯爵令嬢だな) 
 男は懐に拳銃を隠し持っており拳銃に手を触れようとしたとき、少し離れた席にまた青灰色の瞳をした人が座ったので、男はとりやめ席を去った。青灰色の瞳の人は「アラビアのロレンス」だ。 
 観客席の外縁には、駐在所の巡査を始めとする警察官たち五名が陣どって警備していていたが男が刺客だとは気づかないようだ。観客席の刺客が立ち去るとロレンスは後を追った。刺客もロレンスの気配に気づいたようで、演じてゆっくりした歩調から速歩きとなり、最後には駆けだした。ロレンスも駆けた。
 劇場からレオノイス駅前通りを抜け市街地に抜けロレンスが近づいたとき、刺客との間に軍用トラック数両がわって入って行く手を阻んだその隙に、刺客は市街地の小路地に逃げ込んでロレンスを振り切った。
   ✩
 翌日、レオノイス夏祭りとなった。朝方、花火が打ち上げられ、パレードは城から始まって、大聖堂、市庁舎、駅、劇場へとむかう。メインストリートに臨んだ宿屋の野外席で朝食をとっていたオットー・スコルッエニーとミューラーの二人は、デザートの莓シャーベットをほおばりながらパレードを見物していた。 
「ねえ、スコルッエニー。シナモンは、ほんとに撃たれちゃうよ」   
「可愛いことをいうんだね、ミューラー。ありえないさ。姫君には、最強騎士『アラビアのロレンス』がついているのだよ」 
「そりゃあ、そうだけどさあ……」
 少年たちの話していることは物騒ではあるが、内容を訊かずにおれば天使のようで、スコルッエニーの頬にある傷も野性的なしなやかさを感じさせ、遠巻きにみていたご婦人方の視線を釘付けにした。 
 パレードは、色とりどりの中世風装束で着飾った町の子供たちが楽器を演奏し、赤と青の旗を交互に投げ合う旗手、路面で宙返りをしながら沿道の群衆を楽しませている軽業師を気取った若者たちが続いていく。そして黄金で飾った白い馬車が現れた。
.
 ――馬車に姫様が乗っていない!
.
 人々は喜々として馬車をのぞき込んで、がっかりした様子になった。 順調にコースを巡ったパレードは劇場にたどり着いた。



【登場人物】

レディー・シナモン/後に「コンウォールの才媛」の異名をとる英国伯爵令嬢。13 歳。

サトウ卿/英国考古学者・元外交官・勲爵士。サー・アーネスト・サトウ。 主要考古学論文『上野地方の古墳群』。

オットー・スコルツェニー/頬に傷のある少年。後にナチスSS大佐となり、「ヨーロッパ一危険な男」と呼ばれる。

T.E.ロレンス/トーマス・エドワード・ロレンス。陸軍中佐。第1次世界大戦の英雄「アラビアのロレンス」。オクスフォード大学卒の考古学者でもある。戦術書として著書『知恵の七柱』が有名。このほか、高校・大学時の中世城郭研究では、当時の学界に一大センセーションを起こした。


リザード城 

レオノイス城から手前イゾルテ島・奥トリスタン島を望む。港が城下町となり、その奥が、かもめ岬である。

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新年、おめでとう御座います。
本年も、宜しくお願いします。

絵を眺めています。
誠に失礼だとは、思いますが、
絵本を書かれれば、大成功なされるのではないかと、
個人的には思います。

今年も、いい年であればいいですね。ランクポチ。

jizou様

絵つきで作品をだしてみないかという出版社のお誘いがありましたが
費用の半分120万くらいだしてもらいたいとのこと
なにぶん被災地に本拠があり、経済的な余分はなく
ただただ腕を磨くしかありません
どのくらい先になるかわかりませんが なおの精進を目指したいと思います
お励ましのお便りに感謝いたします
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