伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第16回/ トリスタンの殺人 『伯爵令嬢シナモン1924年』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

第16回/ トリスタンの殺人 『伯爵令嬢シナモン1924年』

2012年4月校正
伯爵令嬢シナモン1924年
「トリスタンの殺人」 

第2章 男装の伶人(4) 

 翌日、かもめ岬の麓にある屋外劇場楽屋に駐在の巡査が困った顔をしてやってきた。
「姫様、なんとかこの舞台だけは取りやめにしていただけませんかねえ」 
「気遣っていただいてありがたく思うのですが、そういうわけには参りません。町のみなさんが楽しみになさっているのですから──」 
 騎士の衣装を身にまとった少女が伏し目がちにいった。 
「まあ、姫様のことだから、そういうとは思っていたのですがね、しょうがない
──実は父君であらせられる伯爵様からも要請されていましてね……本部からの捜査と姫様警護の派遣増員を申請しておきました」 
 若い巡査はため息をついた。
「そろそろ教えてくださいよ、姫様……犯人が誰だかもう察していらっしゃるんでしょ?」 
「おおよそは──でも決め手となる証拠や証言がありません……すべては明日のレオノイス夏祭りで明らかになるでしょう」 
 このとき監督の青年が屋外の舞台で、「第二幕のリハーサルだ。みんな集まってくれ!」と呼ぶ声がした。観客席には前日と同じように、サトウ卿が座っていた。ちょっと様子が変わったのは、そこに庭師老夫婦と調理師若夫婦、そして庭師の孫であるジョン少年が加わったことだ。 
  ✩ 
  明け方、アイルランドの騎士モルオルトとの死闘で毒刃による傷を負い、従者ゴルヴナルの漕ぐ小舟がアイルランドにたどり着いた。砂塵をまきあげて浜辺を疾駆する沿岸警護の騎兵が二人をみつけ走り寄ってきた。
 「シケで船が沈んだのか? いま行く。もう大丈夫だ、祖国アイルランドは漂着者にも慈悲深い国だ」 
 従者ゴルヴナルは、落ち着かぬ様子で主に耳打ちした。 
「アイルランド王国の浜辺に着いたのです。前に攻めてきたアイルランド騎士モルオルトはイゾルテ王女の婚約者です。トリスタン様が御名をいえばたちどころに殺されてしまいましょう。タントリスという偽名をお使いなさいませ」 
「……」 
 トリスタンは毒のために声もだせずに、どうにか、うなづくのみであった。浜辺で発見された主従二人は斥候騎兵のはからいで修道院付属の病院に預けられた。トリスタンがほかの傷病者とともに寝台を並べていると、ほどなくして、慈悲深い王女が診療にやってきた。長い黄金の髪、伏し目がちな目、繊細な指……。 
(この人がイゾルテ王女か……なんと美しく心優しい王女なのだろう) 
 病床のトリスタンは思った。王女は寝台に腰を降ろし、トリスタンの傷口に毒消しの秘薬を塗り、侍女に手伝わせて包帯を巻いてやった。
 王女と侍女が立ち去ると従者ゴルヴナが主人に耳打ちした。 
「すばらしい女性ですが敵国の王女です。好いてはなりませんぞ、トリスタン様」 
「わっ、判っておる」
 五日ばかり経って、タントリスと名乗った患者とその従者は正体が明かされないうちに、もと来た浜辺で漁師を買収するとアイルランドから脱出した。
  ✩
 シナモンがリハーサルをしていた頃、町の居酒屋のテーブルに髭面の流れ者が、ボトルから手酌でコップにウイスキーを注いでおり、その横に男が腰掛け耳打ちした。 
「報酬は三百ポンド」 
「承知した」 
 三百ポンドというのは、当時の平均年収である。髭面の男は、懐に拳銃を隠し持っている。依頼者と請負人は互いに横目でみやりながら薄笑いを浮かべたのだった。



【登場人物】

レディー・シナモン/後に「コンウォールの才媛」の異名をとる英国伯爵令嬢。13 歳。

サトウ卿/英国考古学者・元外交官・勲爵士。サー・アーネスト・サトウ。 主要考古学論文『上野地方の古墳群』。

オットー・スコルツェニー/頬に傷のある少年。後にナチスSS大佐となり、「ヨーロッパ一危険な男」と呼ばれる。

T.E.ロレンス/トーマス・エドワード・ロレンス。陸軍中佐。第1次世界大戦の英雄「アラビアのロレンス」。オクスフォード大学卒の考古学者でもある。戦術書として著書『知恵の七柱』が有名。このほか、高校・大学時の中世城郭研究では、当時の学界に一大センセーションを起こした。


リザード城

レオノイス城から手前イゾルテ島・奥トリスタン島を望む。港が城下町となり、その奥が、かもめ岬である。

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目次/トリスタンの殺人 『伯爵令嬢シナモン1924』

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theme : 自作小説(ファンタジー)
genre : 小説・文学

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comment

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No title

シナモンちゃん、犯人が誰か分かっているんですね。
流石、天才。
私は、判りません。

今年も、お世話になりました。
来年も宜しくお願いします。
良いお年を!

jizou様

ミステリーとしては古典的で単純、あとで推理小説関連の概説書をよんでいると
禁じ手をやっていたようです
推理というよりは、ムードを味わっていただければなあと考える次第です
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