伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第15回/ トリスタンの殺人 『伯爵令嬢シナモン1924年』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

第15回/ トリスタンの殺人 『伯爵令嬢シナモン1924年』

2012年4月校正
伯爵令嬢シナモン1924年
「トリスタンの殺人」 

第2章 男装の伶人(3) 

 かもめ岬の麓にある劇場でリハーサルをしているころだ。夏になるとカンカン帽の少女が戻ってくるように、同じ季節、かもめ岬の頂きに現れる人がいた。 
 青銅器時代に構築された環状列石は「オークルのまな板」と呼ばれるもので、そこの近くに、BMWのサイドカー仕様オートバイが停められていた。石柱を環状に巡らし、その上に梁を載せた環状列石の上で輪をつくったロープを、ぶるんぶるん、と回転させて宙に投げるウェールズからやってくる男だ。 
 青灰色の瞳、女性的な容貌、その男がいま宙に向かって投げたロープを抱きしめるようにたぐりよせ、「そーら、シルフィー。捕まえた!」というと、いつの間に来たのだろう、少年二人がすぐ下に現れた。 
「『知恵の七柱』の著者トーマス・エドワード・ロレンスさんですね?」 
ロレンスと呼ばれた男が、石の梁の上に腰を降ろし、立てた片膝に片腕を載せ、そこにかしげた頭を載せた。 
「君たちは?」 
「僕はウイーンからフェンシングの親善試合にきたオッートー・スコルツェニー。隣にいるのが親友のミューラーです」  
「ほう、どうして僕がロレンスだと判ったんだい?」 
 頬に傷のある少年が笑みを浮かべて答えた。 
「『アラビアのロレンス』、あなたの肖像は世に溢れている──新聞、雑誌、もろもろの書籍……そしてなにより、あなたの放つオーラは常人よりも強くまぶしい」 
 青灰色の瞳をした男は、少年たちを──正確にいえばスコルツェニーを凝視した。 
「スコルツェニー君、ここにいるのは偶然ではないね?」 
 少年は質問に答える代わりにこう告げた。 
「あなたと親しくしている〈かもめ岬の姫君〉が、麓の劇場でレオノイス夏祭りのだしもの『トリスタンとイゾルテ』のリハーサルをしています──ご存知ですか、 ロレンスさん、姫君がいま命を狙われているということを?」 
 青灰色の目が大きく見開かれた。 
  ✩ 
 同じ頃、レオノイス川右岸に臨んで構えてある主を失った荘園屋敷に、ロールスロイス・シルバーゴーストが乗りつけてきた。車から降りてきたのは白のスーツを着こなした長身の男である。男は仏頂面をした使用人老婦人の案内で、今は亡き館の主ジョージ・セシルの書斎に通された。書斎のある二階からは手入れの行き届いた庭を眺望することができ、幼少期にジョージ・セシルがシナモンのためにブランコをこしらえたオークの木もみえる。 
 やがて男は、書斎南東隅に置かれた白いグランドピアノに備えられた椅子に腰掛け、ワーグナーの歌劇『トリスタンとイゾルテ』の前奏曲をピアノ用に編曲したものを奏でだした。曲はイ短調和音で始まり、ハ長調となり、やがてまたイ単調へと戻っていくトリスタン和音である。二小節が終わり三小節めに入ろうとしたとき、ジョージ・セシルの夫人エリーが書斎に入ってきた。 
「モーガン、来てくれたのね!」 
 モーガンと呼ばれた男は、窓辺にもたれてエリーを抱擁し髪を優しくなではじめたのだった。



【登場人物】

レディー・シナモン/後に「コンウォールの才媛」の異名をとる英国伯爵令嬢。13 歳。

サトウ卿/英国考古学者・元外交官・勲爵士。サー・アーネスト・サトウ。

オットー・スコルツェニー/頬に傷のある少年。後にナチスSS将校となり、「ヨーロッパ一危険な男」と呼ばれる。


リザード城

レオノイス城から手前イゾルテ島・奥トリスタン島を望む。港が城下町となり、その奥が、かもめ岬である。

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genre : 小説・文学

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comment

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No title

知恵の七柱がロレンスの作とは知っていました。
しかし読んだ事がなかったので、迂闊にも、
アラビアのロレンス作だとは、知りませんでした。
ランクポチ。

jizou様

ロレンスの著作では卒業論文の『十字軍の要塞』
それから、第一次世界大戦での回想録『知恵の七柱』が有名です
後者は東洋文庫から出版されています
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