伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第11回/ トリスタンの殺人 『伯爵令嬢シナモン1924年』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

第11回/ トリスタンの殺人 『伯爵令嬢シナモン1924年』

2012年4月校正『伯爵令嬢シナモン』更新開始 。

伯爵令嬢シナモン1924年
「トリスタンの殺人」 
 
第1章 二つの島(9)


 夕刻というにはまだ間がある。喪服から平服に着替えたシナモンは、二階建ての居館南西隅に設けられた「子供部屋」の窓際に立ってみた。眼下には屋敷を巡らしたオークの木々があり、枝葉の隙間からレオノイス川の流れが望める。そう、屋敷の西側が川になっているのだ。屋敷林のすぐ崖下の川原には、ジョージ・セシル家専用の船着き場があり、ヨットにモーターボート、カヤックまでもが繋留されていた。
(トリスタン島に行くにせよ、イゾルテ島に行くにせよ、犯人が島に渡るにはボートを使ったはず──)
 シナモンは、お気に入りのカンカン帽を被って階段下の裏口から船着き場に出てみた。船着き場は川の流れの反対側からL字形に掘り込まれており、ヨットとモーターボートが一艇ずつ、形の違うカヤックが三艘浮いている。故人のジョージ・セシルは、裕福であったこともあるが、五十を越えたばかりであったため、体力的にもスポーツを楽しむ余裕があったのだ。
 カンカン帽の少女は船の一つ一つを検分していくと不自然な痕跡を発見した。モーターボートの縁と、モーターの一部がざらついおり、傷跡には粘板岩の細片が食い込み、船底にはいくつかの粘板岩の小石が転がっていた。
 ──間違いない、この船だ。小父様と犯人はこのモーターボートで島に渡ったのだわ。犯行を目撃したジョンの話しによると、トリスタン島でおじ様を後ろから棒で殴った犯人は男性。日没までかもめ岬にいた私たちは犯人が島から出ていくところをみなかった――ということは……駐在さんたちがトリスタン島に渡ったとき、犯人は島から逃げ出したあとだったのではなく島のどこかに潜んでいたということになるはず。
 シナモンは手にした粘板岩の小石をみつめて、「『物語』の扉を開く魔法の鍵を手に入れた……」とつぶやき居館に戻った。
 居館の構造は東側を正面玄関とし、二階にある玄関の真上をバルコニーとしていた。二階バルコニーから西奥階段までが大きなホールになっており、その中央部は吹き抜け構造になっていた。バルコニーからホールを挟んで南側には当主の書斎、客室、「子供部屋」が並び、北側には夫人の化粧室、夫妻の寝室が並んでいる。カンカン帽の少女は、バルコニーの横にある当主の書斎をのぞいてみることにした。
 書斎の出入り口はホールに面した北壁両端の二ヵ所にあり、階段のある奥の扉からなかへ入ると左手に暖炉があり、西壁は全体が本棚になっている。東壁と南壁には窓があり、南東隅には白のグランド・ピアノ、そして部屋中央には事務机、とリビング・セットが置かれている。
 大まかに書斎を眺めてみると別に不自然なことはない。しかし十三歳の少女は小さな異常を見逃さなかった。
 ──書棚は整然と書籍やノート・ファイルが並んでいるのに、不自然に空いた、ところがある。
(これも幾つかドアがある魔法世界へ通ずる鍵の一つ。真実へと連なる何番目の扉を開く鍵だかはまだ判らない。誰かが何らかの目的で、その人にとって不利な情報が書き込まれたファイルを故意に抜き取っていったのだとしたら?)
 少女は部屋を出て厨房に向かった。当主が亡くなっても使用人の勤めは変わらない。シナモンは一階にある厨房に降りて使用人の老夫婦に話しを訊いてみた。 
 シナモンが厨房に入ると使用人の老夫婦が忙しそうに夕げ支度をしていた。十三歳の少女に声をかけたのは妻のほうだった。
「これはどうも、姫様。こんなところに何のご用でごぜえます?」
「ええ、ジョージ小父様の件で、最近変わったことがなかったかどうか知りたいのです」
 すると老夫人がやってきて小声で行った。
「口の堅い姫様だけにゃいっておくけどさあ。あたしゃ二十年近く旦那様にお仕えしてきたんで、五年前に嫁いできた奥様よりも旦那様に味方するよ。このところのお二人はぎくしゃくしてたね。葬儀にもきていたでしょ? 旦那様のお友達の、あの、モーガンさんて方。あの方がおいでになってからだねえ……」
 フライパンで、魚のソテーをつくっていた亭主の料理人が振り向き、「滅多なことを口にするな!」と怒鳴った。老夫人は首をひっこめる。シナモンが無理に笑みを浮かべて顔のあたりで手を振り退室しようとすると、後ろの階段から男たちが寄ってきて声をかけてきた。
「騙されちゃいけないよ、シナモン。あの女は、儚げな悲劇の未亡人を装ってはいるが、むしろ陰で糸をひいている女狐だ。二人の『馴れ初め』だってジョージに近づく口実に過ぎなかったのさ」
「いや、チャールズ、僕は彼女はやはり悲劇のヒロインだと思うよ。悪いのは、全部あいつさ、エリーはモーガンに騙されて協力したに過ぎない」
 そんなふうに、後ろから男の声がした。葬儀に参加していたジョージ・セシルの従弟チャールズとエディックの二人だ。シナモンにとっては戸籍上親族のうちに入るかどうかというくらい遠い血縁なのだがセシル一門には違いない。
 チャールズのいう二人の「馴れ初め」とは五年前のことだ──。
リザード城

レオノイス城から手前イゾルテ島・奥トリスタン島を望む。港が城下町となり、その奥が、かもめ岬である。


Link→ Mother Blog/ 伯爵令嬢シナモン『飛行船の殺人』

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comment

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No title

第一の重要なヒントと、重要な被疑者が、出て来ましたね。
ドンデン返しが何回もあるのでしょう。
期待しています。

jizou様

どんでん返し
何回作ったか…
だいぶ前の作品なもので
ちょっと忘れがちです 汗^^
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1930年前後の歴史推理小説 シナモンと素敵な旅をどうぞ

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