伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第8回/トリスタンの殺人 『伯爵令嬢シナモン1924年』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

第8回/トリスタンの殺人 『伯爵令嬢シナモン1924年』

2012年4月校正『伯爵令嬢シナモン』更新開始

伯爵令嬢シナモン1924年
「トリスタンの殺人」 

第1章 二つの島(6) 


 トリスタン島とイゾルテ島で起こった連続殺人事件のことは駐在の若い巡査に任せることにした。シナモンは夏休みの宿題である自由研究を再開することにし、朝食をすませるといつもの顔ぶれでかもめ岬に出かけた。庭師の老夫婦、と孫だ。若夫婦の夫である調理師は、夕食の仕込みとシナモンの父親であるレオノイス伯爵夫妻の昼食を準備がし終わる午後、調査地に合流する予定なので、代わりサトウ卿が手伝いに参加した。
 かもめ岬中腹のテラスになったところにシナモンたちが掘り込んだ四角い穴・試掘坑が穿たれている。底には飴状になってから冷えた溶岩があった。サトウ卿が注意深く底をみて、シナモンに訊いた。
「シナモン、君は、溶岩を調査しているんだね?」
「はい、溶岩の存在から従来の地質学では、『かもめ岬は火山の痕跡である』というのが通説となっていました。ですが、雨上がりにかもめ岬を登るとたまに、このようなものを拾うことができますので、疑問に思っていたのです」
 カンカン帽の少女が、ポシェットから取りだしたのは小さな溶岩のかけらであった。溶岩のかけらをみた老勲爵士は鳥肌がたつ思いがした。
「しっ、シナモン……。君は、かけらの学問的価値というものを知っているんだね!」
 溶岩のかけらは、なんと土器片を包んでいたのだ。この場合二つの理由が考えられる。第一は火山が噴きだした溶岩が土器をのみ込んだ場合、第二は建造物が高熱を受けて、どろどろに溶けてしまった場合が想定される。シナモンは、アーネスト・サトウに所見を告げた。
「私はこれが、『溶融堡塁』に伴う遺物であると判断いたします。ただ証明するには、砦に関わる施設の残骸がなければなりません。ですから発掘しているのです」
 『溶融堡塁』というのは、攻城戦で焼け落ちた砦や城の施設のことを指している。しかし試掘坑をみて、それが何であることを理解した者が、岬の頂からやってきた。
「ほう、『溶融堡塁』だね。僕はオットー・スコルツェニー、オーストリーのウィーンから、フェンシングの国際交流試合に招かれてイギリスへやってきた。君は?」
 十三歳の貴婦人が、スカートの裾をつまむ所作「カーテシー」をして名を告げた。
 オットー・スコルツェニーと名乗った少年はシナモンよりも二歳年長で、銀色の髪、やや面長である頬には深い縦傷があり痛々しい。だが気にもとめないどころか誇りしているようだ。頬に深い傷をもつ少年は少女を絶賛した。
「イングランド島はまるでインスピレーションの噴火口みたいだ。近代の思想的刷新は、僕が敬愛するダーウインの著作『進化論』から始まったといわれている。さすがは『進化論』の島。シナモン、君のような若い女の子が、大英博物館学芸員クラスの研究をしている。素敵だ。なんて凄い国なんだ!」 
「スコルツェニー君。君も、かけらの意味が理解できるというのだね?」 
 まだ十五歳の少年ではないか? 老勲爵士は、少女を絶賛する少年に、また驚いた。



リザード城

レオノイス城から手前イゾルテ島・奥トリスタン島を望む。港が城下町となり、その奥が、かもめ岬である。

Link→ Mother Blog/ 伯爵令嬢シナモン『飛行船の殺人』

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genre : 小説・文学

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comment

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溶融堡塁と言う言葉は、以前スイーツマンさんの話で見たような気がしますが、他ではあまり聞いた事がありません。
スイーツマンさんの考えた言葉ですか?
面白いですね。

jizou様

 世界的な考古学の大家に、オーストラリア出身の考古学者、V・G・チャイルドがいます。その著書、『考古学とは何か』『考古学の方法』の二冊がよくテキストとされます。その中に、溶融保塁があります。ローマ軍がスコットランドでケルト人と戦ったとき、ケルト人が築いた要塞を焼き打ちするのですが、その際、土塁がどろどろに解けてしまうので、長らく、火山によるものだとされてきました。それが近代になって、地学者により、否定され、上記のために溶けたものだと証明されます。
 物語ではコンウォールでも溶融城塞がみつかっていますが、実際には、コンウォールのケルト人たちがローマと友好関係にあったため、焼き討ちにはあいませんでした。ゆえに溶融堡塁は存在しません。
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