伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 伯爵令嬢シナモン3 「修道院島」第1章16
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

伯爵令嬢シナモン3 「修道院島」第1章16

 

前回までの粗筋
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 1920年代末。群馬県での殺人事件容疑者となった竹久夢二。知人の萩原朔太郎は、佐藤記者を介して、レディー・シナモンに捜査を依頼する。シナモンの一行は手分けして捜査を開始。事件関係者を結んでいくと捜査線上に戊辰戦争で活躍した林忠崇という元大名が浮かびあがってきた。
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主要登場人物
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レディー・シナモン……英国伯爵令嬢・考古学者。「コンウォールの才媛」の異名がある。
ドロシー・ブレイヤー……米国考古学者。日本古代建築・古代ガラス工芸研究者。短期雇用契約で伯爵家執事に収まった。
佐藤と中居……雑誌『東京倶楽部』の記者とカメラマン。
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伯爵家の老家宰スイーツマン・ウルフレザー。奔放な画家で容疑者の竹久夢二。群馬の詩人萩原朔太郎(はぎわら さくたろう)。朔太郎の妹萩原愛子(はぎわら あいこ)。群馬県警長尾警部。女郎宿の店主「高崎の老人」(隼人)。車夫豆吉(士族、吉之助)。女郎の、殺人事件被害者の黒岩梅。暗殺された阿片商人大和屋太(やまとや ふとし)。請西藩元藩主林忠崇(はやし ただたか)
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 ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※
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 〈高崎の老人〉隼人は、皆をヨットに乗せると、器用に操った。ヨットは白波をたてて榛名湖の中ほどに走っていく。青い横線が入った高い三角帆、船体も白い。十人乗りの少し大きな船だ。
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 ----エンジン付きではないけれど、この人は舟を操舵できる。
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 下流で殺害した黒岩梅の遺体を、エンジン付きの舟に乗せて、〈軍艦島〉に運び、川原から強靱な体力で上まで運びあげる。隼人の年齢だけきけば警察とて、考えの及ぶところではあるまい。
 シナモンはそう思った。〈高崎の老人〉は、意にも介さぬ様子だ。
 もう一人の老人林忠崇卿は遠い目をして、
「長崎丸を思い出すのお」
 とつぶやいた。
 近くにいた佐藤は、ほお、とつぶやいた。
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 長崎丸は、旧幕府海軍に所属したスクーナー型三本マストの鉄製蒸気船で、輸送船であった。
 旧幕府の海将榎本武揚は、三隻からなる艦隊を派遣し、小田原で戦っていた林忠崇ら率いる遊撃隊士百名を三隻のうちの一隻である長崎丸に収容すると、奥州の小名浜に上陸させた。
 長崎丸は、旧幕府海軍に所属したスクーナー型三本マストの鉄製蒸気船で、輸送船であった。スクーナーとは縦帆の船のことで、ヨットのようにも見えなくもない。
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 記者のはしくれである佐藤は、最後の大名である林忠崇卿の戊辰戦争武勇伝は承知しており、戊辰戦争の昔日に思いをはせたのだった。
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 湖というのは波がないようで、対流もあれば風も吹く。桟橋を離れたヨットは、水面(みなも)を斬って瞬く間に湖の中央に滑り出していいく。
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 避暑地におけるクルージングの爽快さから、シナモンに随行した人々は緊張をゆるませていたなかにあって、ドロシーだけは警戒を緩めなかった。サングラスで隠した双眼で、ヨットを操る〈高崎の老人〉と、忠崇卿の動きをずっと追いかけている。
 ドロシーに守られたシナモンは、突然吹いた強風で帽子が飛びそうになるのをどうにか両手でおさえた。
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 ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※
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後 記
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 猫となって考える。飼い慣らされた虎は虎といえるのだろうか。図体がでかいだけの猫でしかないのではないか? そういう自分は猫そのものではないか?
 憤然と、スイーツマンの部屋をでた。とくに何をするわけでもない。付近を散策すると、岩陰をくり抜いた祠があり、秘密めいた階段が地下へとつづいている。時折きこえるのは滴の音だけのはずなのに、何者かが奥で呼んでいるようにも感じた。
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 ----虎だ、おまえは虎になるのだ!
.
 そ、そうか、ここが伝説の……。
 思いもかけず「虎の穴」を発見した。嵐の予感。平穏な日々との決別。しかし「変化」することへの誘惑にはあがなえない。体を低くしながらも、そろそろと、闇の奥へとつづく階下へと脚が動いてしまうのはなぜだ。
 我が輩は佐藤である。名前はまだない。
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(《どこまでも》つづく)

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 ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※
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コメント

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2010/01/02 09:44
ソラちゃん へ

『タイガーマスク』のプロレスラー養成機関「虎の穴」です。おっしゃるように『戦国策』だかの故事が原典だと思いますけれど。 
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2010/01/02 09:23
エ?虎の穴・・・?もしや、
『虎穴に入らずんば虎子を得ず』 ですか?
あ~~虎穴に入って佐藤は何を得るのでしょう~☆.。.:*・゚    
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2010/01/01 21:01
藍姫 様

 だいぶお忙しい年末年始のようでしたね。
 シナモンに思い入れがあり、ドロシーもまたお気に召したとのことで嬉しい限りです。
 佐藤、う~む。

 虎佐藤はやばいかもですねえ。 
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2010/01/01 20:36
シナモン姫には、険しい顔や厳しい顔をさせたくないです。やはり妖精であって欲しい。
今回の騎士役 ドロシー女史は、他の誰よりも勇ましくて素敵です ^^
佐藤さんも負けてはいられませんねw

その佐藤さん(?)。トラになってしまったら 怖いですね ^^;
スイーツマンさん、気をつけて!
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2010/01/01 02:40
もけもけ様

ドロシー博士とシナモンって、モデルは同一人物ですけれど、姓格付けをかえると面白いパートナーになりますね。

「虎の穴」、そう寅年にかけてます。

あ、咲さんへのレスで書き損じてましたけれど、猫佐藤が虎になれるか否かは次回までひ・み・つです。  
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2010/01/01 02:37
咲様

はい、ちょこちょこと回想録をいれようとおもいます。『林忠崇』は、自作小説として描こうと1年半ほど取材をしていましたけれど、すでに『遊撃隊始末』という小説で描かれていましたので、シナモンのエピソードの一つとしました。壮絶な大名戦士の人生ですねえ。

咲さんのきれがよくて品のいい小説のつづきがみたいですね。月1ペースでもつづけていけばさ来年にはできるとおもいますよ。 
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2010/01/01 02:31
BENクー 様

執筆していた段階よりも、資料をよむようになり、史実とのすりあわせに難儀してます。遊撃隊と長崎丸は史実です。架空の人物隼人について。当時はメジャーな名前でして、実在の遊撃隊士におりましたので、混乱を生じないようにあとで名前を変える必用がでてきました。とりあえずは1稿ということで。(平伏)

こちらこそBENクーさんの応援があり楽しくつづけさせていただきました。引き続きご愛顧のほどを。こちらもうかがわせていただきます。 
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2009/12/31 23:40
聡明なシナモンさんに、只者ではないドロシーさん

これだけのキャラがないといけない深い物語になっていくんですね

ところで、虎の穴って

/\___/\
 =キ= |
三・ ・ 三
> ▼ < |
\ ┴__/
ボクノコト?

寅年だもんね~(#^.^#)  
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2009/12/31 17:44
油断なく二人の老人を見つめるドロシー博士はりりしくて素敵です。過酷な時代を戦い抜いた二人の胸には、あの場にいる誰もが知りえぬ思いが去来しているのでしょうね…。

2009年もついに終わりですね。
大げさな言いようかもしれませんが、私はこのニコットタウンでスイーツマンさんにお会いして、それまで忘れていた「書くことの喜び」を思い出すことができました。本当にありがとうございます。
来る2010年もどうかよろしくお願いいたします。
虎となった佐藤氏とお会いできる事を楽しみに…。  
アバター
2009/12/31 17:27
高崎の老人こと隼人と主君林忠崇の過去・・・長崎丸でともに苦難を果たしたであろう背景に思いを寄せずにはいられません・・・また、豆吉がどうか無事でいて欲しいという思いがふつふつと湧いてなりません。

今年は本当にお世話になりました。
スイーツマンさんを知って、小説の面白さに一歩深く入り込めた思いで一杯です。
どうぞ来たる年がスイーツマンさんにとってより良い年でありますように!
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こんにちわ

こんにちわ。
天気がよく少し暖かになってきたようです。

隼人と忠崇は不気味なほどの迫力ですね。
白刃の修羅場をくぐり抜けてきた迫力、そんじょそこらの男では対抗できないでしょうね。
忠崇はん、あまり詳しくは知らなかったのですが調べて記事にしました。
ますます魅力あふれますね。
あんな爺様になりたいですね(^_^;)

佐藤はんも苦悩しているようですね。
そのうち山月記の虎に(^_^;)

KOZOU様

はい、実在の隼人と忠崇の軌跡を追えば、ハードボイルドも影を薄くするものすごい人たちです。調べれば調べるほど好きになる人物です。少し前に小説にした作家がいましたので、この人を単独で物語にするのは避け、シナモンのエピソードに加えることにしました。おっしゃるように林忠崇は格好いい爺さんです。

 山月記。はたして猫佐藤は虎になれるのでしょうか……。
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