伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第1回/ トリスタンの殺人 『伯爵令嬢シナモン1924年』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

第1回/ トリスタンの殺人 『伯爵令嬢シナモン1924年』

 

2012年4月校正『伯爵令嬢シナモン』更新開始

Lady cinnamon  Part ‐Ⅰ
伯爵令嬢シナモン1924年
「トリスタンの殺人」 

序章 パディトン駅(1) 

 この島国にはイギリス国教会なる摩訶不思議な教会組織がある。国王が総主教を兼ねている教団の存在。カソリックもプロテンスタントも肩身が狭くなっていたのだった。ところが、ヴィクトリア朝あたりになると、スコットランドやウェールズといったカソリック信者の多いところからロンドンに移住する人が増え、宗論もうるさくなくなった。一九二〇年代のロンドンでは、カソリック教会もちらほらみかけるようになったのである。
 十三歳のときのシナモンは、首都郊外にあるカソリック系ミッションスクールに寄宿していた。父親のレオノイス伯爵は政府関係の仕事のため、ロンドンの官舎に仮住まいしていた。母親は伯爵と同居している。ゆえに少女は週末だけ両親と一緒に過ごしたのだった。
 一九二四年七月。シナモンが帰宅する前日の昼どきのことだ。ルームメイトの若い修道女が部屋に入ったとき、歳をとった相部屋の修道女がおろおろと、部屋の中をまわっていた。
「あらあら、まあまあ、大変だあ」
「どうしたのですか、副院長?」
「眼鏡なくしてしまったのです。どういたしましょう……」
「またですかあ?」
 若い修道女は微笑んでこう提案した。
「あの子を呼びますわね」 
 十本ほどの林檎の木を植えた中庭。柱がアーチをなして天井に届き、規則的な列をなしてそこを囲んだ大理石の回廊の向こうに、生徒達の寄宿舎があった。三階建てとなっている寄宿舎も相部屋で五人部屋となっている。寝台に腰掛けて読書をしている少女がいた。修道女アグネスは黄金の髪を短く刈り揃えた十三歳のその人に、「シナモン」と声をかけた。
「副院長先生の捜し物ですか?」
 振り向いたあどけない顔をした貴婦人が、サイドテーブルに本を置いて微笑んだ。レディー・シナモン。その人である。生徒である十三歳の貴婦人が、教師二人の部屋に入った。
「なくし物というのは、いつもと違う行動をしたときにするものだと訊いたことがあります」
 質素な修道院生活をおくる人とはいえ、歳を重ねればいつの間にやら物持ちになってしまう。部屋の中はとても散らかっていた。黄金の髪をした少女が困った顔をした。
「現状のままにしてくださると助かったのですが……」
 皺深い修道女がおろおろしながら、すがるような目で少女を見やった。
「では副院長先生、ベッドの下や棚から荷物をかきだす前、なにをなさっていましたか?」
「シスター・アグネスのためにお茶を沸かしていましたよ。ちょうど姪が面会にきてくれて、手土産にアップルパイを差し入れてくれたのです」
「そのとき眼鏡はかけていらっしゃいましたか?」
「さて、どうだったかしら。眼鏡が曇るので外すこともあるのだけれど……」
 若い修道女がが、老修道女の代わりに答えた。
「かけていらしゃらなかったわ」
そんな問答をしていて、けっきょくのところ、(姪っ子が訪ねてくるので珍しく化粧をした際に、眼鏡を外したのではないか)という推論に達した。洗面所に行くと、案の定、目線よりも高い位置にあった棚のところに眼鏡が置かれていたのだ。
 三人が洗面所をでて、中庭に沿った回廊に沿って歩き部屋に戻った。
「シナモン、いつもすまないわね。なにか御礼をしないと。そうそう、紅茶をいれましょう。姪の手土産のひとつに『フォーション』があったわ。アップルパイもまだ残っていますしね」
 若い修道女が副院長に提案した。
「ついでに紅茶占いを教えてさしあげたら、シナモンは喜びますよ。ティーパーティーの余興に欠かせませんもの」
 部屋に散乱した小物類に混じって証券が混ざっていた。南アフリカにあるダイヤモンド鉱山会社の株券だ。老修道女は、それをしげしげとながめて、
「二十年前に亡くした兄の遺産。株に興味がなくて、バスケットにしまい込んでいたの。すっかり忘れていたわ」
 株券を証券会社に持ち込んだところ、株価は数十倍に跳ね上がり、豪邸が一つ買えるほどの額に達していた。副院長は手にした大金のほとんどを修道院に寄付したが、少しだけ、蓄えておくことにした。
「週末に、美味しい紅茶とアップルパイを頂きたいの。そのくらいの贅沢は神様もお許しになられるでしょう。あなたと、それにシナモンも一緒にね」
 老修道女が修道女にウインクした。




リザード城

レオノイス城から手前イゾルテ島・奥トリスタン島を望む。港が城下町となり、その奥が、かもめ岬である。


Link→ Mother Blog/ 伯爵令嬢シナモン『飛行船の殺人』





【登場人物】

レディー・シナモン/後に「コンウォールの才媛」の異名をとる英国伯爵令嬢。13 歳。 

サトウ卿/英国考古学者・元外交官・勲爵士。サー・アーネスト・サトウ。


カーテシー
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comment

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No title

こんにちは!
さっそくお邪魔しました(*´ω`*)テレ

レディー・シナモン、こちらから読み始めて大丈夫でしょうか?(汗)
シリーズものなら、ぜひきちんと第一作から読みたいのですが、クリックしてそのままここに入ってきてしまったものですから。

13歳なんですね(びっくり!)。
理知的で、聡明な、伯爵令嬢‥‥出だしからしっかりとした筆致の文章に惹き込まれました。
あらすじを追うと、この後、シナモンに悲しい事件が起きるのだとか。
ゆっくり追いかけさせてもらいますね♪

Re: No title

飛行船の殺人というのを真っ先に発表し、そのなかで
過去に事件を解決したという設定になっており、
いかなる事件であったのかというのを、追記的に描いたのが始まりです
これは第2校です

『トリスタンの殺人』『修道院島』『飛行船の殺人』…
という順番でレイアウトを再編成していく予定です

長いお話をありがとうございます

No title

ご無沙汰してしまいました。

ボチボチと更新をして行きます。

過去のスイーツマンの記事は
ゆっくりと拝見していきますので、
宜しくです。

jizou様

丁寧な復帰のご挨拶をくださり誠にありがとうございます
全部お読みになるのは大変ですから、
お気に召したものをお気に召した箇所だけどうぞ

No title

スイーツマンさん

前回のコメントで敬称を忘れ、

大変申し訳ありませんでした。

私は半年近く、イギリスにいたことがあり、
シナモンさんには、大変興味があります。

徐々に、目を通しますので、宜しくお願いします。

No title

こんばんわ。
早速寄らせて頂きました。

おぉ、ダイヤモンド鉱山
小公女の世界ですね。
今度またゆっくり鑑賞させて頂きますm(_ _)m

jizou様

シナモンの物語につきまして、今年はウェブコンテンツに参加したため、だいぶ手を入れました。しばらくしたらまた続きを書こうと思います。ごゆっくり、ご覧ください。英国滞在とのこと、ブログ等でエピソードをお聞かせいただければ幸いです。

melo様

 『伯爵令嬢シナモン』シリーズでは、「飛行船の殺人」が人気があります。表題作ですので…。添削講座ではA~DのうちのAでした。「探偵キーマン』も同じくA。お時間のある時に、覗いてくだされば幸いです。
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1930年前後の歴史推理小説 シナモンと素敵な旅をどうぞ

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