伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 2015年03月
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon




 私にとって、もっとも美味だと感じるのは、卵かけ御飯だ。単身赴任すると、すきやをみつけて、朝食メニューであるそれを注文する。カウンター席で食べていると、ド派手に、小父さんたちが、小鉢に落とした生卵をカチャカチャ掻き混ぜる音が気になるものだ。
 さてさて、昨年二〇一三年末、私が観た映画に、朝原雄三監督の映画『武士の献立』というのがある。
 上戸彩演ずるところのお春は、加賀藩料理方・舟木家に嫁ぐ侍女で、剣術の腕前はいいのだが家業の料理にはまったく興味がないのに長男坊の急死で家を継ぐことになった二男坊・高良健吾扮するところの伝内安信に嫁ぐことになる。お春は元々、江戸の著名な料亭の娘だったのが大家で店とともに両親を亡くし、加賀藩の心優しい側室に拾われて、仕えていたのだ。お春の内助の功があって、からっきし料理が駄目な跡取り息子は、めきめき腕を上げてゆくという筋立てだった。
 かくいう私の母親の先祖というのが、会津藩の料理方・包丁侍の系譜とのことだ。もともとは茨城県那珂市あたりの百姓だったのが、松平家に拾われて、給仕したらしい。それを知った私は、彼の家の献立に往時をしのぶものがあるか思い起こしてみた。
 伯父が打ってくれた蕎麦・うどんの類、伯母の料理、従兄夫人の料理。……美味いのだが、大名料理とかではないように思う。
 そこで、「待てよ」と私はふと思い立った。
 同家の人々は、生卵を掻き混ぜるとき、小鉢に落とさず、直接御飯に落とすのだ。
 対して、私の生家である磐城の奄美家で、膳の取り方を躾けたのは、戦前、花嫁修業のため東京の女学校で学んだ婆様だった。食事一回につき、最低一回は箸を置くようにとか、焼き魚の綺麗にバラす方法とかを習ったものだ。彼女はもちろん卵を小鉢に落した。ガチャガチャ音は立てなかったのだが、別容器で掻き混ぜるという行為には変わりない。
 ……そういうわけで、幼少時の私が、伯父のところに遊びにいった折り馳走になる朝食で振る舞われる、生卵・直落とし方式が、下品な振る舞いに映った。
 しかしまあ、誰がやっても生卵は、しっかり小鉢に落として、カチャカチャ音をたてて掻き混ぜるとき、黄身と白身がなかなか上手く混ざり合わないものだ。
 先日、NHK『マサカメ』なる番組を視聴していたところ、卵を小鉢に落とすとき、黄身と白身とを分け、白身を先に御飯で掻き混ぜ、しかるのちに黄身を入れる。そうすることにより、美麗なまでに混ざり合った卵かけ御飯となるというものだった。
 いや、そんな七面倒くさいことをしなくても、直接卵を御飯にかけても効果は同じだ。たまに、殻の欠片が茶碗内に飛ぶことがあるから、それを避けるためだけに、小鉢を使ってもよい。そうすれば、優雅な作法で卵かけ朝食を楽しめるというものではないか。
 恐らく会津の伯父の家では、事情を知っていて、生卵直落としをやっていたのだろう。包丁侍たちのまかないの一つに卵かけ御飯があり、その行為が作法だったのではないか、と想像するのである。
 ――さて朝がきた。すきやへでかけよう。優雅な朝食・卵かけ御飯をとりにゆくのだ。
 これはしたり、皆の衆、なぜ笑われる? ……あ、無理か。(奄美屋、いつも阿呆よのお)
.    END
.
.     ノート2014.05.14

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